指定国立大学災害科学世界トップレベル研究拠点

東北大学東北アジア研究センター
災害人文学ユニット

Core Research Cluster of Disaster Science

Center for Northeast Asian Studies Disaster Humanities Unit

研究内容

文化遺産
Cultural Heritage

本共同研究は、被災地域の文化遺産に着目し、従来の人文学にはない様々なアプローチを用いる調査研究を推進しています。たとえば超高精細スキャン装置を用いた研究では、過去の古絵図や地図といった文化財をデータとして取り込み、過去の歴史災害の被災状況を明らかにすることで、被災範囲を予測し防災に役立つ学際的研究を推し進めています。また3Dスキャナーなど三次元計測技術を応用した研究では、被災予想地域の祭礼や民俗芸能で用いられる道具(獅子頭や神楽面など)の形状を計測し、データベースとして整備することで無形文化遺産の存続ならびにコミュニティの復興に資する調査研究およびその方法論の構築を目指しています。このほか、東日本大震災の被災地域における祭礼や民俗芸能の復興状況にかんするアンケート調査をもとに被災後の実態把握と課題の抽出を進めています。このように本共同研究は、従来の人文学の垣根を超えた様々な分野とともに学際的に展開しつつ、文化遺産に焦点をあてる独自の貢献を果たしていきます。

高精細スキャナで絵図を撮影する様子

コミュニティ再生
Rebuilding Communities after disaster―From the perspective of gender equality and diversity

2015年第3回国連防災世界会議で採択された「仙台防災枠組」では、「ジェンダー平等と多様性」に基づき多様な主体が防災と復興に参画することが勧められました。この方針によって、「ジェンダー平等と多様性」の視点からなる復興の重要性が行政や市民社会で広く認識されるようになったのも事実です。ところが、これまでの研究を見ると、高齢者や女性ボランティア団体による活動事例等は多くみられるものの、地域内で多様な属性の人々の協働による復興活動や多様な属性の人々が互いに議論することによって得られる復興の上昇効果等の報告はあまりみられません。
本研究は、東日本大震災後の復興過程の中で、特に復興の主体から外されがちな女性やマイノリティの声がコミュニティ再生にどのように届いているのか、また行政や市民グループは彼らの声にどう対応してきたのかを検証し、その課題を突き止めていきます。
誰もが排除されないコミュニティ再生は、次の災害に強い減災力を持ち、持続可能な社会の基盤となります。本研究を通して、東日本大震災後に問われた「より良い復興」の可能性を提示していきたいと思っています。

共同研究の構想図

記録と記憶
Records and Memories

本研究班では記録と記憶の役割に着2目し、地域社会における未来の防災力を高める方法論を探ります。多種多様な記録手法の中でも、災害の状況や体験者の証言、失われつつある地域の伝統行事や芸能などを記録し、背景の物語を交えてわかりやすく紹介する映像記録は、防災教育や被災地の歴史文化の継承・発展を喚起する媒体となります。また、東日本大震災に関連して数多くのドキュメンタリー映画が制作されました。震災映像の防災効果を考えるときにドキュメンタリー映画が担う社会的喚起力は重要であり、記録映像との相互的活用を考える必要があります。本研究班では、国内外の震災に関わる記録映画の製作者・研究者との研究会と上映会の開催および情報発信を通じ、震災映像をつくる・観る・伝える文化の発展と活用を目指しながら、地域社会の未来の防災を導く方法論を探ります。さらに、日常生活に取り入れられる防災のあり方として、未来・過去・現場の視点から災害に向き合う「生存学」の構築を目指し、文理融合の研究活動を進めます。
2019年第2回災害人文学研究会「ファインダー越しの対話―記録が橋渡しする過去・現在・未来―」にて

宗教・民俗文化の地域社会における意義に関する国際比較研究
International Comparative Intangible Cultures

本研究班は、災害後のコミュニティにおいて祭礼、芸能、葬送墓制、宗教行事などの宗教・民俗文化がもつ意義について、日本、インドネシア、中国、ネパールなど多様な地域を視野に入れながら国際的に比較研究することを試みます。具体的には、主に民族誌的な方法によりつつ、慰霊、墓制、祭礼、芸能などを取り上げながら、それが個人のアイデンティティーや生活実践と結びつきながらコミュニティを根底から支えていく様子を明らかにしていきます。このことにより本研究班では災害に対する脆弱性を減じ、レジリエンスを高めるうえでの宗教・民俗文化の有用性を明らかにしていきたいと考えています。また、このような有用性をもつ宗教・民俗文化を保護するため、ユネスコなどの国際的枠組みに対して貢献をすることを目指します。

東日本大震災後の仮設住宅における神楽上演 (2013年4月13日東松島市小野駅前仮設住宅にて木村撮影)


《2019年度までの研究内容》

歴史と災害
Historiography of disaster archives with high resolution scan

本分野においては、東日本大震災の発生以降、本学に蓄積された被災地における文化財・歴史資料の保全活動の経験や、文理横断型の災害研究・実践的防災学の手法に基づいて、世界最先端の超高精細スキャン装置を活用し、文化財・歴史資料の新たな保全技術の研究開発および、多様な資料に基づく歴史情報を活用した災害・防災の新たな学際的研究を展開します。超高精細スキャン装置は4Kカメラによる超高精による撮影および移設しての撮影ができる可搬性を有しており、東北地方各地の様々な文化財・歴史資料に対して高解像度のデジタル化を進めるとともに、各地の大判の古絵図・古地図を撮影・分析し、過去の歴史災害の研究や、歴史的景観と今日の災害との関係性の分析に取り組みます。

三次元の民俗学
3-D scanning analysis of local cultural heritage

東日本大震災以降、地域社会の復興をめぐり神楽や獅子舞といった民俗芸能の果たす役割が注目されています。本研究班は、復興・防災に資する実践的研究として、ポータブル3Dスキャナを用いた無形文化財保存・継承に資するデータベース構築を試みます。文化遺産の三次元計測は、これまで大規模建造物の記録化や保存科学、文化財研究といった分野で取り組まれています。ただ、地域社会の生活に根づいた祭礼で用いられる民具に着目した研究はまだ限られているのが現状です。本研究班は、東北地方沿岸部にとどまらず、南海トラフ地震の被災予想地域、そして国外の災害常習地の民俗芸能で用いられる面や獅子頭の三次元データの計測とデータベースの構築を試みることで、無形文化遺産の存続ならびにコミュニティの復興に資する調査研究とその方法論の構築を目指します。


3Dスキャナーで三次元計測された獅子頭(規格品)
Three-dimensional Scanned Data of a Prototype of Shishigashira (lion’s head)

健康と民俗
Community health and intangible cultural heritage

本研究班は、地域社会の民俗行事がもつ意義を、そのスピリチュアルな側面も含めた健康やレジリエンスという観点から検討することを試みます。近年、とりわけ災害をめぐり問われるようになってきた心のケアをめぐる問題について、東北大学は「臨床宗教師」という制度を立ち上げ、苦悩とむきあう実践的な支援活動を展開してきました。西欧におけるスピリチュアルケアをめぐる諸研究は、傾聴やカウンセリングなど、どちらかといえば個人的な信仰や宗教実践に注目してきた傾向にあります。一方、日本では「お迎え」現象や供養文化、儀礼の重要性が指摘され、臨床宗教師のプログラムにも「民間信仰」の講義が含まれていますが、それがいかように効果を発揮するかという研究は十分になされていません。心身の健康と社会的な「レジリエンス」の関連を再考する近年の研究成果も踏まえながら、本研究班は国際的な共同研究を立ち上げ、「健康と民俗」との連関を考察するとともに、年中行事や祭礼など地域社会に根付く民俗の意義を再検討することを試みます。

震災映像アーカイブ
Archiving of disaster films and their applications to disaster prevention and education

災害の状況や体験者の証言、失われつつある地域の伝統行事や芸能などを記録し、背景の物語を交えてわかりやすく紹介する映像記録は、防災教育や被災地の歴史文化の継承・発展を喚起する媒体として文化財という意味もあります。東日本大震災に関連する映像は膨大であり、ドキュメンタリー映画だけでも数百タイトルが製作・上映されています。震災映像は、市民の記録や学術記録など公的な記録となりうるものと、監督が存在し作品化された映画があり、後者は、商業権・著作権等からアーカイブ化の対象となりにくいものです。とはいえ、震災映像の防災効果を考えるときにドキュメンタリー映画が担う社会的喚起力は重要であり、両者の相互的活用を考える必要があります。本研究班では、震災映像による地域社会の防災力(震災前だけでなく震災後の災いを防ぐという意味もある)を活かすべく、国内はもちろんのこと海外の記録映画の製作者・研究者との研究会と上映会の開催および情報発信を通じて、震災映像をつくる・観る・伝える文化の発展と活用の方法論を探ります。

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