日本地質学会(1997年10月11日.九州大学.)
地球惑星科学関連学会合同大会(1997年3月??〜??日.名古屋大学.)
中新統北陸層群最下部鷲走ヶ岳月長石流紋岩質 火砕流堆積物の溶結作用に伴う流体の循環と元素の移動
石田勇人・石渡 明 (金沢大 理学部)
Mt. Wasso moonstone rhyolite welded tuff in the lowest part of the Miocene Hokuriku Group, central Japan : Fluid circulation and resulted element redistribution in the course of welding.
Hayato ISHIDA and Akira ISHIWATARI (Kanazawa Univ.)
鷲走ヶ岳月長石流紋岩は石川県石川郡鳥越村鷲走ヶ岳北麓に産し,新第三系 中新統北陸層群最下部を占める日本海拡大初期に活動したアルカリ流紋岩であ る.
この流紋岩の層厚は約80mであり,下部から@非溶結凝灰岩層 (>8m),Aピ ッチストーン層 (7-8m),Bリソフィーゼ層 (2m),C強溶結凝灰岩層 (<5m),D 弱溶結凝灰岩層 (>57m) で構成されている.月長石斑晶 (Or51Ab49) は@〜Dの どの層準にも含まれ,石英斑晶に富み斜長石斑晶をほとんど含まない.
Aのピッチストーン層は非常にユータキシチック組織が発達したガラス質の 溶結凝灰岩であり, Bのリソフィーゼ層は平均長径約8cmのノジュール状楕円 体の集合体である.楕円体の中央部にはメノウがあって一見同心円状に見える が,マントル部分にはピッチストーン層同様同心円状構造とは無関係にユータ キシチック組織が発達している.楕円体は上位ほどその外形が不明瞭になり, 中央部のメノウも葉理に平行なアメーバ状となってCの強溶結凝灰岩層に漸移 してゆく.
この様な産状はBのリソフィーゼ層を除いてSmith (1960) の溶結凝灰岩の模 式的な構造と一致しており,これらが一連の火砕流堆積物であることは明らか である.しかし,@〜Dの各層準の岩石について87Sr/86Sr 同位体比を測定した ところ,Rb/Sr比に大きなバラツキがあり,常に相関の良いRb-Sr全岩アイソク ロン (MSWD=0.27) が得られた.その初生同位体比は0.708971±0.000075 で あり,年代値は19.5±0.6Ma であった (石田勇人・石渡明・加々美寛雄, 1995 年岩鉱学会発表).アイソクロンの相関が良いのは火砕流噴出もしくは堆積時に 層厚80m以上ある火砕流内部で同位体比の均質化が起こったことを示している と考えられる.
この流紋岩はSiO2>75wt.% (無水再計算値) の高シリカ流紋岩に分類される (Spell and Kyle, 1989).C〜Dの層準ではCaO (<0.27 wt.%), Sr (22-39 ppm) に 乏しく,K2O (5.71-6.31 wt.%), Rb (188-231 ppm) に富むが,Aのピッチストー ン層ではこれとは逆にCaO (2.28-2.41 wt.%), Sr (506-672 ppm), に富み,K2O (1.52-2.72 wt.%) に乏しい.ピッチストーン層 (A) の直上にあるリソフィーゼ 層 (B) ではC〜D同様CaO (0.13 wt.%), Sr (22 ppm) に乏しいが,K2O (7.76 wt.%), Rb (266 ppm) にもっとも富んでいる.この様なK, Rb元素の濃度分布か らK, Rbは溶結作用に伴うピッチストーン層からのシリカに富む流体の絞り出 しによってリソフィーゼ層に濃集したと考えられる.また,ピッチストーン層 におけるCa, Sr元素の濃集はCa, Sr元素を比較的多く含む海水に火砕流が突入 し,これを蒸発させる事で濃集したと考えた(石田勇人・石渡明・加々美寛雄, 1996年三鉱学会発表).
しかし火砕流が海水 (Ca 400 ppm, Sr 8ppm, Rb 0.12 ppm) に突っ込んだとす るとピッチストーン層でSrを600ppm濃集させるには海水を75倍濃集させな ければならない.ピッチストーン層の層厚は8mであるから海水の深度は600m は必要である.これでは火砕流堆積物の溶結前の厚さが200mでも溶結凝灰岩 になり得ない.そこで今回はCa, Srの濃集に関して, Ca, Srは外部から注入に よるものではなく,流体の循環にともない凝灰岩の内部から集められたとする モデルを考えた.
飛騨外縁帯西部伊勢結晶片岩からの灰曹長石-黒雲母帯に属する泥質片岩の発見
伊藤秀樹(金沢大・理学部地球学科)
Finding of oligoclase-biotite zone pelitic schist from Ise area, western Hida-Gaien belt, central Japan
Hideki ITOH (Kanazawa University)
高圧中間型変成帯において灰曹長石の出現は,その泥質片岩の最高変成度を示す指標となる(Enami,1983).日本における高圧型変成帯からの灰曹長石の報告では,四国中央部(榎並,1982)及び紀伊半島西部(廣田,1991)の三波川帯が知られている.最近,飛騨外縁帯の青海地域からも灰曹長石が報告されている(杉村ほか,1996,合同学会講演要旨).
今回,飛騨外縁帯西部の伊勢地域において,灰曹長石を含む泥質片岩とそれに伴うザクロ石角閃岩を発見したので報告する.(ただしこれまでのところ,露頭は確認していない)
福井県の九頭竜川上流伊勢地域は主に古生層が分布しており,結晶片岩・蛇紋岩の岩体が幾つかみられる。また,それらを手取層群が不整合に覆っている.伊勢岩体は,東西約3km南北約2kmの眼球状の変成岩体である.岩体は塩基性片岩が大部分を占めており,曹長石-緑簾石角閃岩相を示す.塩基性片岩の原岩としては,斑れい岩・粗粒玄武岩が考えられる.泥質片岩は岩体南部にわずかに存在するのみであり,その鉱物組合わせは,ザクロ石+緑泥石+黒雲母+白雲母+曹長石+石英である(宮川,1982;相馬ほか,1983;伊藤,1997MS,金沢大卒論).
今回報告する灰曹長石を含む泥質片岩は,岩体南部の沢沿いで発見した,拳大から人頭大の大きさの転石である.この灰曹長石を含む泥質片岩と伊勢岩体との関係は,露頭を欠くため不明である.これらの転石うち,約20cm×15cm×10cmの転石は片理方向に伸びた2cm×6cm×3cmのレンズ状ザクロ石角閃岩を挟んでいる.
灰曹長石を産する泥質片岩の代表的な主要鉱物組合わせは,ザクロ石+黒雲母+白雲母+普通角閃石+ルチル+灰曹長石+曹長石+石英であり,少量の電気石・燐灰石・方解石・炭質物を含む.
灰曹長石は最大でAn21.6に達し,灰長石成分をほとんど含まない曹長石と共存している.また,An0.4の曹長石の周りにAn16.0の灰曹長石が成長しているものも確認される.一方,岩体の塩基性片岩と泥質片岩では斜長石は全てAn3.0以下の曹長石である.
黒雲母はかなり緑泥石化しており,多くはK2O=3.00wt%程度しか含まない.
ザクロ石は,径2.0mm程度の斑状変晶をなしており,包有物として緑簾石の微粒結晶・白雲母・黒雲母・石英・ルチル,及びカリ長石を含んでいる.緑簾石は基質部には,極わずかしか認められない.基質中のルチルは,しばしば径1.0mm以上に達する.
転石中のザクロ石の組成はほとんど均一であり,若干リムでMnが減少している.この点において,コアからリムに向かいMnが著しく減少する岩体の泥質片岩のザクロ石との間に累帯構造のパターンの違いがみられる.ザクロ石のリム組成を比べて見ると,灰曹長石泥質片岩とザクロ石角閃岩のものは,ほぼ同じ値を示し,岩体の泥質片岩のものよりMgに富む組成を示す.これは,一般により高温で形成されたザクロ石ほどパイロープ成分に富む傾向と一致する.
飛騨外縁帯の泥質片岩は青海地域で,緑泥石帯と黒雲母帯に分帯されている(Banno,1958).今回,飛騨外縁帯西部・伊勢地域から灰曹長石-黒雲母泥質片岩が発見されたことにより,飛騨外縁帯の西部地域にも従来知られていたよりも,さらに高変成度の岩石が分布することが明らかとなった.
中国山地大江山帯/蓮華帯,320Ma青色片岩を含む蛇紋岩メランジュ(大佐山蛇紋岩メランジュ)のメランジュ・マトリクスの初生かんらん岩
辻森 樹 (金沢大学理学部地球学教室)
Primary peridotite in the melange-matrix of the 320Ma blueschist-bearing Osayama serpentinite melange, Chugoku Mountains: TATSUKI TSUJIMORI (KANAZAWA UNIVERSITY)
【はじめに】中国山地に分布する超苦鉄質岩体群は蛇紋岩化しているものの初生的な岩相変化を残す塊状のマントルかんらん岩体であり(例えば,Arai, 1980;松本他,1995),かんらん岩体が低温高圧変成作用を被った岩石学的証拠はない.それら大江山オフィオライトのかんらん岩体のうち大佐山かんらん岩体の北東縁に320Maの青色片岩(蓮華帯に相当)を構造的に含んだ蛇紋岩メランジュが発達する(大佐山蛇紋岩メランジュと呼ぶ).今回,メランジュ・マトリクスの“蛇紋岩”の初生かんらん岩部分についてその岩石学的性格を検討した.
【大佐山蛇紋岩メランジュ】大佐山蛇紋岩メランジュにはエクロジャイト相の鉱物組み合わせを残したザクロ石-藍閃石片岩をはじめ,ローソン石-藍閃石片岩,緑レン石-藍閃石片岩,緑色岩,曹長石岩,ヒスイ輝石岩,オンファス輝石岩,含クロムオンファス輝石トレモラ閃片石岩などの高圧変成岩が“蛇紋岩”中に大小のブロックとして産する(辻森,1996年4月地質学会講演).“蛇紋岩”メランジュ上位の大佐山かんらん岩体本体が塊状のかんらん岩であるのに対し,メランジュ中は剪断された蛇紋岩が卓越する.メランジュ部分と塊状かんらん岩体との大きな相違点は,^メランジュは約320Maの青色片岩相の高圧変成岩を含む(年代値はTsujimori & Itaya,1996年9月三鉱学会講演)が塊状かんらん岩にはそれらは含まれない;_塊状かんらん岩体には単斜輝石ガブロやドレライトが岩脈として貫入しているがメランジュではローソン石・パンペリー石・藍閃石・アルカリ輝石を含むブロックとして産する,といった2点があげられる.
【初生かんらん岩の岩石学】初生かんらん岩は剪断された蛇紋岩中にブロック状に残っている.火成組織が残っている初生かんらん岩25試料中,(単斜輝石を含む)ハルツバージャイトが21試料,ダナイトが4試料である.ハルツバージャイトは最高で33%の初生鉱物が残っているのに対し,ダナイトではクロムスピネル以外は完全に蛇紋岩化している.ハルツバージャイトは大江山オフィオライトに特徴的な虫食い状のクロムスピネル(踊るスピネル)を含み,単斜輝石と複雑な連晶をなす.ハルツバージャイト中のかんらん石はFo値=90.5−91.5,クロムスピネルはCr/(Cr+Al)比=Cr#=0.40−0.57,Mg/(Mg+Fe)比=Mg#=0.40−0.66,TiO2wt%≦0.1,斜方輝石はAl2O3wt%=2.42−3.00,Cr2O3wt%=0.70−1.01,Wo値=1.30−1.23,単斜輝石はAl2O3wt%=1.01−3.18,Cr2O3wt%=0.54−1.44の化学組成であり,中程度の枯渇度のスピネルかんらん岩である.ダナイトはかんらん石仮像が2cmに達する粗粒のダナイトと細粒なダナイトの2種があり,クロムスピネルはいずれも自形である.粗粒ダナイトはクロムスピネルの化学組成がTiO2wt%=0.20−0.39(平均0.30),Cr#=0.40−0.45,Mg#=0.60-0.68とTi含有量が高く沈積岩であるが,細粒ダナイトはTiO2wt%=0−0.17(平均0.07),Cr#=0.51,Mg#=0.49−0.54とTi含有量は低い.
【蛇紋岩の岩石学】メランジュ・マトリクスの蛇紋岩及び初生かんらん岩の蛇紋岩化した部分は主としてクリソタイル/リザーダイト(稀にアンチゴライト)からなり少量のブルーサイト,緑泥石,マグネタイトを含む.かんらん岩の組織を残していない蛇紋岩はしばしばクロムアンドラダイト(Cr2O3wt%=3.1−8.4)を含む.蛇紋岩化したハルツバージャイトの初生単斜輝石はしばしば二次的な単斜輝石に置換されており,2つの試料から初生単斜輝石を置換するソーダトレモラ閃石(Na2O3wt%=3.1−4.3)を発見した.このソーダトレモラ閃石はIshizuka (1980)が幌加内オフィオライトのダナイト中から報告したクロムスピネルに随伴する産状とは異なる.蛇紋岩鉱物の組み合わせから蛇紋岩化の条件は低変成度の青色片岩ブロックと同程度の温度(約250−350℃)が推定されるが,Naの交代作用により形成されたと思われるソーダトレモラ閃石は高圧の指標とはならない.
【メランジュ・マトリクスに高圧変成作用の証拠はあるのか?】メランジュ中のトレモラ閃石片岩の1ブロックは大江山オフィオライトのかんらん岩に一般的な化学組成のクロムスピネル(Cr#=0.55−0.56,Mg#=0.43−0.48,TiO2wt%=0.05)のレリックを含み,クロムオンファス輝石やクロムパンペリー石などの高圧鉱物が生じている(Tsujimori, 投稿中).このかんらん岩を起源とするトレモラ閃石片岩ブロックがメランジュ・マトリクスのなかで唯一,かんらん岩(大江山オフィオライトの一部)が低温高圧条件下で交代作用を受けた可能性を持っている.
【初生かんらん岩から見た蛇紋岩メランジュの性格】初生かんらん岩のクロムスピネルのCr#は試料ごとに異なり,Nozaka & Shibata (1994, 1995)の報告した大佐山かんらん岩体の初生かんらん岩中のスピネル(Cr#=0.47−0.48)よりもかなり広範囲の組成変化が狭いメランジュ中で見らる.その組成領域はほぼArai (1980)の示した西隣の足立岩体や多里-三坂岩体のような大きな岩体に見られる組成領域とほぼ等しい.つまり,メランジュ・マトリクスには大佐山かんらん岩体本体だけでなく,もっと広範囲のマントルかんらん岩部分が含まれている可能性がある.
大江山オフィオライトの(中圧型?)変成沈積岩類の変成作用:パラゴナイト,マーガライトを含む鉱物共生
辻森 樹 (金沢大・理・地球)
Metamorphism of meta-cumulates (medium-P/T type?) from the Oeyama ophiolite, SW Japan: phase equilibria among paragonite, margarite and associated minerals
Tatsuki Tsujimori (Kanazawa Univ.)
【はじめに】京都府北部の大江山かんらん岩体に伴われる超苦鉄質〜苦鉄質沈積岩類は,古生代前期(?)に緑れん石-角閃岩相の広域変成作用を被っており,藍晶石と十字石を含んだ緑れん石-角閃岩(以後,Ky-St-Czo角閃岩と略す)が報告されいる(Kurokawa, 1975; Kuroda et al., 1976; Kurokawa, 1985).演者はこの変成沈積岩の変成作用と変成履歴が岩石学的・地質学的に重要な意味を持つと考え,詳細な検討を始めている.今回は,特にKy-St-Czo角閃岩の鉱物の組成・共生関係と変成作用について概報する.
【大江山かんらん岩体】大江山岩体は大江山オフィオライトの岩体の中でもっとも東に位置し,溶け残りかんらん岩(Cpxを含むハルツバージャイト)は西方の岩体群に比べ枯渇度が低い.(変成)沈積岩類はダナイト(少量)・ウェルライト・単斜輝石岩・斑れい岩から構成され,溶け残りかんらん岩体の北部にまとまって,1つのテクトニック・ブロックとして産する(Kurokawa, 1985).同じ様な変成沈積岩類は,中国山地東部のかんらん岩体(若桜,出石)に見られるが,中国山地中央部の岩体(多里,足立,大佐山など)には産しない.大江山の変成沈積岩(角閃岩)からは426MaのK-Ar(ホルンブレンド)年代が報告されている(仁科・石渡・板谷,1990講演要旨).
【Ky-St-Czo角閃岩】Ky-St-Czo角閃岩は単斜輝石岩起源の角閃岩を密接に伴う.今回検討した試料はすべて完全に再結晶しているが,ホルンブレンド/単斜ゾイサイトのモード比の変化による縞状構造は原岩の沈積構造を反映していると思われる.全岩化学組成はSiO2(39.5〜41.1wt.%),MgO(4.4〜6.7wt.%),Na2O+K2O(<2.2wt.%)に乏しく,Al2O3(20.6〜25.5wt.%),CaO(14.1〜15.3wt.%),FeO*(9.4〜11.5wt.%)に富み,ノルム石英・コランダムは計算されず,ノルムアノーサイトとネフェリンがそれぞれ60〜64%,4〜8%計算される. Ky-St-Czo角閃岩には,Hbl + Czo(Zo) + Ky + Mg-rich St + Chl + Ma + Pa ア Ms ア Ab(An<4) ア Pl(An28-39) + Rt ア Ilm + Ap + Sulphideの鉱物組み合わせ認められ,石英を欠く.上記の鉱物のすべてが互いに平衡共存するわけでなく,白色雲母の産状(後述)から少なくとも2つの平衡時期が読みとれる.Hbl+Ky+Ep+St+Rtの組み合わせはアルプスのTauern Window (Selverstone et al., 1984)やNew ZealandのFiordoland (Gibson, 1979)の中〜高圧塩基性変成岩から報告されている(ただし,前者はQtzとGrtを含む.また,後者に含まれるPlはCaに富む(An46-65)).
【主要鉱物の産状・化学組成】Hbl:ほとんどホルンブレンドはチェルマック閃石[Fe3+/(Al+Fe3+)=0.12〜0.27),NaB=0.25〜0.44,NaA=0.20〜0.65,XMg=0.60〜0.76]に分類されるが,十字石と共存するもの[Al2O3=12.9〜16.4wt.%(AlIV=1.42〜1.88]は,そうでないもの[Al2O3=15.2〜18.0wt.%(AlIV=175〜1.93)]に比べてAlに富む.Czo(Zo):主要なエピドート族鉱物はCzo(単斜ゾイサイト)(Ps12-20)であり,Zo(Ps3)と共存する.しばしば二次的なエピドート(Ps27-28)が変質部に見られる.Czoは包有物として,Pa(±Ms),St,Chl,Abを含む.St:十字石には3つの産状があり,それぞれMg含有量が異なる[^Hblと共存し,Czo(±Ky)に置換される(MgO=2.4〜3.2wt.%);_Czo中の包有物(MgO=2.6〜2.7wt.%);`Hblと共存せず,周囲はMaに囲まれる(MgO=1.2〜2.5wt.%).]ZnO含有量(0.7〜2.0wt.%)に産状による相違は見られない.Hblと共存するStはCzoに置換されている.Chl:Hbl・Czoと共存するものは(XMg=0.72〜0.75),Ma・Paと共存するもの(XMg=0.63〜0.67)に比べMgに富む.Pl:An<4のAbはCzoと共存し,An28-39のPlはHblと共存すが,いずれもそのモードは極めて低い.
【パラゴナイト,マーガライトの産状・化学組成】マトリクスに見られるPa(Pa75-93Ms<17Ma3-20)とMa(Pa7-64Ms<4Ma36-93: Pa7-37Ms<4Ma61-93に集中)は少量のChlを伴いKyを置換する.PaとMaは平衡に共存している.Kyを置換するPaは稀にMs(Pa7-10Ms90-93Ma<2)を伴うがCzoの包有物として見られるPa(Pa77-85Ms3-9Ma11-20)−Ms (Pa17-24Ms76-82Ma<1)ペアに比べて組成ギャップが広く,また,若干Ma成分が多い傾向がある.Kuroda et al. (1964)は大江山の変成沈積岩中のゾイサイト-白色雲母脈から,Ms−Paペアを見出し,そのPaにMa成分が固溶していることを示した.今回,WDSによる定量分析で得られた186個の白色雲母にデータのうち,20個はPaとMaの中間組成(Pa39-64Ms<4Ma36-59)であった.また,中間組成の雲母はMaに囲まれる十字石中の包有物としても認められた.
【変成条件(予察的考察)】鉱物の共生関係からKy-St-Czo角閃岩の降温期の履歴が読みとれる.岩石学的証拠『^Czo+Ky+Rtが安定;_Hblと共存するStがCzoとKyに分解し,CzoはChlを包有する(反応1:St+Hbl+H2O→Czo+Ky+Chl);`Pa・MaがKyを置換する(反応2:Czo+Ky→Ma+An;反応3:Czo+Ky+Ab→Pa+An)』に基づいた各連続反応をTHERMOCALC
(Holland and Powell, 1990)を用いて計算し,Pa-Ms温度計(Blencoe et al., 1994,GCA)から変成履歴を考察すると,Czo+Ky+Chlの組み合わせは500℃において約0.8GPa以上で安定であり,温度依存性の高い反応1が起きた570〜600℃においては1GPa以上のかなり高圧の変成圧力が推定される.また,反応2・3は約400℃において約0.6GPaの変成条件を示す.
ロシア極東,タイガノス半島のオフィオライト岩類の岩石学多様性
齋藤大地・石渡 明(金沢大学理学部地球学教室)・S.D.SOKOLOV(ロシア科学院)
Petrological variation in Taigonos Peninsula ophiolites, Far East Russia
Daichi SAITO, Akira ISHIWATARI (Faculuty of Science,Kanazawa University), and S.D.SOKOLOV (Geological Institute, Russian Academy of Sciences)
【はじめに】ロシア極東コリヤーク山地には,他の環太平洋地域と同様に付加型造山帯が発達し,古生代から中生代にかけて形成されたとされるオフィオライトが広い範囲にかけて分布している.タイガノス半島はカムチャッカ半島の西にある東西100km,南北150km程の半島であり,コリヤーク付加体の最南端に位置する.今回はタイガノス半島南東岸に露出する3地域(北からキンゲバヤム,北緯61。09';ナブリュデニー,北緯61。00';ポボロートヌイ地域,北緯60。45')のオフィオライト岩体の,超苦鉄質岩及び苦鉄質岩について検討した.
【タイガノス半島の地質と岩石】キンゲバヤム地域は北西から南東にかけて石炭系(粘板岩主体?),オルドビス系(粘板岩主体),斑れい岩を主とするオフィオライト(幅約2km),角閃岩(塩基性・泥質)とそれを貫く石英閃緑岩が露出している.斑れい岩は斜長石,単斜輝石,緑色角閃石から構成されるが斜方輝石は確認されない.ナブリュデニー地域の北部は石英閃緑岩の貫入によって再結晶した蛇紋岩を主とし,泥岩,チャート,枕状溶岩がこれらに挟まれており,強い変形作用を被っている.鏡下では接触変成によって再結晶したかんらん石,直閃石,斜方輝石が観察できる.南部の蛇紋岩は再結晶が弱く,かんらん石と赤褐色スピネルが残存している.ポボロートヌイ地域の岩体北部には新鮮なレールゾライト岩体(以下Lhz.Mt.)の周囲に蛇紋岩メランジュが発達し,枕状溶岩,玄武岩質凝灰岩,デイサイト質凝灰岩,斜長石花崗岩,角閃岩,クロム輝石岩(?),レールゾライト,ざくろ石角閃岩の岩体がテクトニックブロックとして存在する.Lhz.Mt.のレールゾライトは,かんらん石,斜方輝石,単斜輝石,緑褐色スピネルが残存する.本地域中部にはチャートオリストストローム中にレールゾライト礫を含む部分があり,これらには単斜輝石,赤褐色スピネルが残存し,斜方輝石の仮像を含む.ポボロートヌイ岬最南端にも蛇紋岩メランジュが存在し,メランジュ中のかんらん岩は蛇紋岩化が激しいが,岩相はレールゾライトからダナイトと変化に富むことが確認できる.
【地球化学的特徴】キンゲバヤム地域に産する斑れい岩中の単斜輝石は,TiO2<0.5wt%,Al2O3=1.3〜3.1wt%,Cr2O3<0.3wt%,100Mg/(Mg+Fe)=Mg#=75〜85であり,共存する斜長石のAn値は50〜72を示す.単斜輝石のMg#及び,斜長石のAn値から考えられる分化傾向から起源マグマはMORB的であったと考えられる.ナブリュデニー地域の再結晶かんらん岩中の斜方輝石はAl2O3量が少なく(<2wt%),かんらん石のFo値は92を示し,スピネルのCr/(Cr+Al)値が0.8であることから,これらの源岩はハルツバージャイトであり,非常に涸渇した島弧的なマントルが起源であると考えられる.ポボロートヌイ地域のLhz.Mt.のレールゾライトに含まれる斜方輝石,単斜輝石のAl2O3量は非常に多く(3〜6wt%),かんらん石のFo値も90程度であり,共存する緑褐色スピネルのCr/(Cr+Al)値は0.2以下と極めて小さいことから,これらは部分溶融程度極めて低い上部マントル起源であろう.ポボロートヌイ中部のオリストストローム中のレールゾライトに含まれるスピネルはCr/(Cr+Al)値が0.4〜0.5を示し中程度の枯渇度の上部マントルが起源であろう.岬最南端のメランジュ中のかんらん岩中のスピネルは,Cr/(Cr+Al)値が0.5〜0.6程であるが, TiO2を多く含む(0.3〜0.5wt%)ので沈積性ダナイトであると考えられる.
【結論】タイガノス半島南東部の3地域のオフィオライト岩類は,岩石学的・鉱物化学的にそれぞれ大きく異なっており,狭い地域に部分溶融程度の極めて低いマントル起源のオフィオライトから,極度に涸渇した島弧的マントルを起源とするオフィオライトまで,様々なタイプのオフィオライトが存在していることが示唆される.
夜久野オフィオライト上郡変斑れい岩体(兵庫県)のショショナイト質変閃緑岩について
石渡 明(金沢大学理学部)
Shoshonitic metadiorite in the Kamigori metagabbro body of the Yakuno ophiolite in Hyogo Prefecture, western Japan
Akira ISHIWATARI (Kanazawa University)
上郡変斑れい岩体は、兵庫県南西部上郡町北方の東西15km, 南北4kmの地域を占め、その南北両側は二畳紀付加帯の上月層と断層で接する。岩体の北半部には粗粒な変斑れい岩、南半部は細粒な角閃岩が主に分布する。岩体南縁部には角閃岩質角礫岩が発達し、上月層への衝上に関連して形成されたものと考えられる。
本岩体の主体をなす変斑れい岩は、小宮(1975,76;地質学会演旨)が指摘したように、単斜輝石+斜方輝石(仮像)+角閃石+斜長石の組合せのものが多く、角閃石を含まないものもかなり存在する。角閃岩の多くは角閃石+斜長石±単斜輝石の組合せだが、ポーフィロクラストとして斜方輝石仮像を含むものがあり、少なくとも一部は、粗粒な変斑れい岩が圧砕されたものである。変斑れい岩や角閃岩の単斜輝石のMg#(Mg/(Fe+Mg))と、共存する斜長石のAn%(Ca/(Na+Ca+ K)の間には、一般の火成岩体におけると同様に、顕著な正の相関があり、Mg#70の単斜輝石と共存する斜長石のAn%は70程度である。しかし、京都府夜久野以東の変斑れい岩・角閃岩では、Mg#70の輝石と共存する斜長石はAn%35程度であるから、上郡では斜長石が著しくCaに富む。比較的鉄に富む有色鉱物と著しくカルシウムに富む斜長石を同時に晶出するのは、伊豆大島や八丈島などの海洋性島弧ソレイアイトマグマの特徴であり、上郡岩体の主体はそのようなマグマから結晶化した斑れい岩類を原岩とすると考えられる(Ishiwatari et al. 1991: Troodos'87 Proc.)。
ここで報告するのは、黒雲母変閃緑岩というべき岩石で、単斜輝石+斜方輝石+斜長石+黒雲母±角閃石±石英+磁鉄鉱の組合せをもち、かなりの量の燐灰石やジルコンを含む。上郡岩体北半部に散在するが、周囲の変斑れい岩類と色指数が同程度で、同様の片麻状構造を有し、野外では識別困難で、分布範囲や岩体の形状は不明である。これは、猪木・弘原海(1980:1/5万上郡図幅)が報告したトーナル岩類の岩脈や不規則な貫入岩体とは異なる。
黒雲母変閃緑岩では、単斜輝石のMg#は60ー69と鉄に富み、斜長石はAn%43程度とナトリウムに富む。黒雲母を含まない通常の変斑れい岩の単斜輝石はMg#70-76、斜長石はAn% 70-83である。この岩石の最も大きな特徴は角閃石のK/Na比が1.1-2.4に達すること(通常は0.1-0.3)、斜長石のカリ長石成分がOr%4.5(通常は0.1-0.4)に達することである。黒雲母変斑れい岩〜変閃緑岩の原岩は、非常にカリウムに富み、しかも斜方輝石や石英を含むことから、カリウムに富みシリカに飽和したマグマ、即ちショショナイト系列のマグマから形成されたと考えられる。
黒雲母変閃緑岩の希土類元素パターンは、石英を含むものは比較的フラットで(La/Yb)n=2.0程度であるのに対し、石英を含まないものでは6.0程度とかなり軽希土に富む。重希土類の量((Yb)n)はいずれもコンドライトの8-10倍程度である(図1)。通常の変斑れい岩とそれが圧砕された角閃岩は、(La/Yb)n=0.8,(Yb)n=6以下であるが、火山岩起源と考えられる角閃岩は(La/Yb)n= 1.5,(Yb)n=10-20である。黒雲母変閃緑岩はこれと同じか、より液相濃集元素に富むパターンを呈し、変トーナル岩とは全く異なる。
枯渇したソレイアイトが卓越する海洋性島弧でも、例えばマリアナ弧北部の日吉海山ではショショナイト系列のマグマが活動しており、北陸地域の第三紀グリーンタフでもソレイアイトや高アルミナ玄武岩に交じってショショナイト系列のマグマが活動した(石渡・大浜1997;地質雑,103,565-)。上郡岩体は古生代後期の海洋性島弧地殻の断片と考えられるが、そこにも同様のショショナイトマグマの活動があったものと考えられる。
熊本県北部,山鹿変斑れい岩体の岩石学的性質:中国地方の夜久野・大江山変斑れい岩体との比較
齋藤大地・石渡 明 (金沢大学理学部地球学教室)
Petrologic feature of the Yamaga metagabbroic complex in northern Kumamoto Pref., Kyushu, Japan: Comparison with Yakuno and Oeyama metagabbroic rocks in western Honshu
Daichi SAITO and Akira ISHIWATARI (Kanazawa University)
《はじめに》熊本県・福岡県境に沿って,東西16km,南北6kmに及ぶ変斑れい岩体が三郡-周防変成岩類の構造的上位に分布している.榊・山本(1967)は山鹿変斑れい岩体と下位の三郡-周防変成岩類が同一の広域変成作用を受けていると解釈したが,上位の変斑れい岩体(306,477Ma:普通角閃石のK-Ar年代(西村・柴田,1989))は下位の三郡-周防変成岩類(193Ma:白雲母のK-Ar年代;207Ma:Rb-Sr年代(柴田・西村,1989))より明らかに古い年代を示し,また両者の間に確認される非変成層の存在(早坂・梅原,1994地質学会講演要旨)から両者は別の地質体と考えられている (例えば,石渡,1989:Isozaki,1996).今回我々は山鹿変斑れい岩体の岩石学的性質と中国山地の古生代変斑れい岩類 ( 大江山オフィオライト(以下 OEO) ,夜久野オフィオライト(以下YKO))との比較検討を行った.
《山鹿岩体の地質》山鹿変斑れい岩体は岩体の長径方向を軸とする緩やかな向斜構造を成し,岩体周縁部(即ち岩体下部)ではしばしば超苦鉄質岩類(ダナイト,ウェルライト,単斜輝石岩)が産する.また,岩体周縁部の斑れい岩は著しく剪断され片理がよく発達し(片状変斑れい岩),その片理の方向は下位の三郡-周防変成岩類と調和的である.
《記載岩石学的特徴》変斑れい岩の初生鉱物は自形から半自形の単斜輝石と斜長石,斜方輝石,褐色-緑色角閃石,石英であったと考えられる.斜長石は完全にソーシュライト化しており,斜方輝石も緑泥石や石英に置換されているが単斜輝石ラメラがアクチノ閃石に置換され残っていることがある.更に単斜輝石も一部が周縁部からアクチノ閃石に置換されている.変成鉱物としてブドウ石,パンペリー石(Al/(Al+Mg+Fetot)比=0.68〜0.91),緑泥石,緑簾石(ピスタサイト成分=5〜34モル%),曹長石,石英を含み,パンペリー石-アクチノ閃石相から緑色片岩相程度の変成条件が考えられる.ダナイト/ウェルライトは蛇紋岩化が激しくかんらん石は完全に緑泥石と蛇紋石に置換されているが,ウェルライトでは最大約2cmに達する単斜輝石がポイキリティックにかんらん石仮像を包有する組織が観察される.このような組織を示す超苦鉄質沈積岩はOEOでは非常に希であり,YKO(福井県大島半島)でもモホ面近くの超苦鉄質沈積岩は全て等粒状〜圧砕岩組織を呈するのと対照的である.単斜輝石岩では変成鉱物として希にウィンチ閃石(Na2O=5.0wt%,Al2O3<1wt%)を含む.YKO,OEOの超苦鉄質沈積岩ではこのような青色角閃石の報告はこれまでにない.
《中国山地の変斑れい岩類との比較1》単斜輝石の組成から見た斑れい岩の特徴:変斑れい岩中の単斜輝石(TiO2<0.56wt%,Al2O3=0.5〜3.8wt%,Cr2O3<0.7wt%,100Mg/(Mg+Fe)=Mg#=65〜88)の化学組成から見るとOEOのそれに比べMg#が低く,YKOに近い.ただし同じMg#で比較した場合Cr2O3含有量が多い点でYKO変斑れい岩中の単斜輝石とも異なる.山鹿変斑れい岩体全体での変化は乏しく全体でほぼ均質である.
《中国山地の変斑れい岩類との比較2》斑れい岩の全岩組成から見た岩体の特徴:山鹿変斑れい岩体の全岩組成(SiO2=48.0〜53.6wt%,TiO2=0.1〜1.0,FeO*=6.9〜11.6wt%,FeO*/MgO=0.51〜1.76,Na2O+K2O=0.3〜3.4wt%)はOEOと比較してアルカリ成分,TiO2に非常に乏しく,分化トレンドも異なる(Fig参照).一方でYKOの井原岩体の分化トレンドと酷似している.
地震予知をめざす、金沢市内の湧水の水温・流量・陽イオン濃度の年間継続観測:地質、気象の影響と異常検出の可能性の評価
石渡 明・本間芳一(金沢大学理学部地球学教室)
One-year continuous observation of water temperature, flow rate, and cation concentration at some natural springs in Kanazawa City aiming at the earthquake prediction: Evaluation of geological and meteorological effects and possibility to detect earthquake precursors.
Akira ISHIWATARI and Yoshikazu HONMA (Kanazawa Univ.)
1995年1月17日の兵庫県南部地震の発生が、もしその前日までに予知され、一般に報知されていれば、大混乱は必至であったにせよ、死者や火災は激減していたであろう。
最近、地震の約2カ月前から、神戸市内で湧水の流量、地下水の水位、ラドン濃度、各種イオン濃度、大気中のラドン濃度などに、顕著な異常があったことが報告された(脇田,1996;安岡・志野木,1996など)。また、精密なトモグラフィーによって、この地震の震源断層に沿い、地下16-21km付近に長さ20km、幅15km程度の低速度(-5%)の部分が検出され、地殻の割れ目を満たす水の圧力増加が地震の引き金になった可能性も出てきた(Zhao et al. 1996)。日本では、1965年の松代群発地震、1978年の伊豆大島近海地震、1995年の新潟県北部地震など、地震前の顕著な地下水異常の報告例がある。中国では、地殻変動[262]、地磁気[255]、地電流[95]などだけでなく、地下水の水位[504]や成分[493]の観測所([ ]内はその数)を全国に置き、1975年2月4日の遼寧省海城地震(M7.3)、1995年7月12日の雲南省孟連地震(M7.3)などを予知し、直前予知の失敗を何度か経験しながらも、着実に被害を軽減してきた(Zhang et al., 1996)。
日本では、1949年から1994年まで46年間、死者1000人を越える大きな被害地震がなかったが、その前の6年間には近畿・中部圏で鳥取、東南海、三河、南海、福井と大被害地震が頻発した。金沢では1799年の直下型地震以後、被害地震は全くないが、金折(1993)によると金沢沖から伊那へ伸びる「御母衣−阿寺ブロック境界線」沿いでは、金沢沖に地震空白域があり、ここで将来大地震が発生する可能性がある。人口50万都市金沢での地震予知研究の必要性は高い。
金沢は並行して北西方向へ流れる犀川・浅野川に沿って小立野面やその下の笠舞面などの河岸段丘が発達し、段丘崖からの湧水が多い。我々は1996年4月から、南から北へ法島不動、笠舞大清水、旧長谷川町、馬坂不動の4箇所で棒状水銀温度計による水温と気温、メスカップとストップウォッチによる湧出量、イオンクロマトグラフによる陽イオン濃度(Na+,K+,Ca2+,Mg2+)の観測を3日に1回程度行い、地質、気象、及び地震活動との関係を調べた(下の図表)。
これらの湧水の水温は、11-16℃程度で、気温より2〜4カ月遅れて2-4℃程度の年変化を示す。しかし日変化はほとんどなく、1カ月間の変化も0.5℃以下である。湧出量は豪雨(例:6月25日)や大雪(例:12月1日)の後3-10日して、3倍程度増加することがあり、平常時も降水に関連して数10%程度変動する。各陽イオン濃度は、各々の地点で個性があり、Na+,K+,Mg2+は南から北へ増加する傾向がある。これら3種のイオン濃度は湧出量や水温の影響を受けず、観測開始以来の変動幅は約1ppm以下である。Ca2+は3ー7ppm程度の変動を示すが、これが年変化なのか、より長周期の変化なのか不明である。
段丘を構成する地層の上位から下位へ、段丘礫層(細礫)、卯辰山層(粗粒砂)、大桑層(細粒砂)から試料を採集し、各50mlと純水50mlを21℃で撹拌し、純水中に溶出したイオン濃度を測定した。Na+は各々23,14,10 ppm, Mg2+は9,3,2 ppmであった。北方のNa+とMg2+に富む水は段丘礫層を通ってきた水を多く含む可能性がある。
観測期間内に近隣地域で大きな地震の発生はなく、地震活動との関連は不明であるが、もし1978年の伊豆大島近海地震のように1カ月前から5℃以上の地下水温の変動があったり、1995年の兵庫県南部地震のように2カ月前から1ppm以上のイオン濃度の変化があれば、我々の方法でもそれらの前兆を十分捉えられるはずである。