福島第一原子力発電所事故後の仙台の放射線量

及び東北・関東各地と東北自動車道・新幹線沿いの放射線量

東北大学東北アジア研究センター 石渡 明

[東北大学東北アジア研究センター] [石渡ページ] [東北大学防災科学研究拠点]

[東北大学理学部地球惑星物質科学 科・大学院理学研究科地学専攻] 

[地震津波前兆現象アンケート] [地震前兆現象の説明]

目次

【1】 仙台市青葉区での放射線量測定結果、及び東北・関東地方各地の放射線量公表値とその時間変化

【2】 仙台・東京間の高速バスと新幹線車中の放射線量測定結果

【3】 福島県国見町〜浪江町の放射線量測定結果

【4】国際線旅客機で飛行中の放射線量(参考資料)

【5】自然界の放射線(参考解説)

追記: 新幹線車中の放射線量と日本〜豪州間の飛行機内の放射線量について(2012年08月15日)

2011年04月22日作成、2014年06月09日更新


【1】 仙台市青葉区での放射線量測定結果、及び東北・関東地方各地の放射線量公表値とその時間変化

  2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震と津波による福島第一原子力発電所の事故の後、3月13日から4月1日まで、仙台市青葉区において大気中の放射線量をガイガーカウンターで測定した (図1)。ガイガーカウンターの機種は米国テネシー州のS.E. International, Inc.社製の「Inspector+」(国内販売はMeasure Works株式会社)で、それぞれ5分間の平均値をμSv/h単位で計測した。 セシウム137で検定された測定精度は15%とのことで、検定は1年間有効との保証書がついている。このガイガーカウンターは、野外における放射能鉱物の調査や学生教育などを目的として3月初めに購入したものであるが、図らずもこのような測定に役立つことになった。

 仙台 における空気中の通常の自然放射線量は0.05μSv/h程度であるが、 図1のように今回の事故後は0.15μSv/h程度の値になっている(4月初旬時点)。しかし、日本国内でも花崗岩が地表に広く露出している地域では、この程度の自然放射線量の場所も多く、心配すべき値ではない。ただし、南風 が吹くと放射線量は顕著に上昇する。これは、福島県内の放射線量の高い地域(図2)にあった空気が流れてくるためと考えられる。また、仙台市内でも、アスファルト舗装した露天の道路・駐車場などの表面から1〜2 cmの場所で測定すると、放射線量が1μSv/hを超えることがある。これは運ばれてきた放射性物質が多少沈着しているのかもしれないが、ビルなどの表装石材として使用されている花崗岩の近くで測定すると、もっと放射線量が高いこともあるので、アスファルトに含まれる花崗岩質の砂や小石のためかもしれない。花崗岩にはジルコン、モナズ石、褐れん石などの放射能鉱物が少量含まれる。

 図2で明らかなように、放射線量の減り方は時間とともに緩くなっている。これは、原子炉から放出された半減期の短い放射性核種(ヨウ素、テルル、モリブデン、ルテニウム、ストロンチウム、バリウム、ジルコニウム、イットリウム、ランタン、セリウムなど)の放射能が急速に少なくなり、半減期の長いセシウムだけが残るようになるからである。セシウムの半減期は30年なので、年数が経過してもほとんど放射線量が減らない。セシウムはアルカリ元素の一種で、カリウムに似た性質を持ち、植物によく吸収されるので、雨が降っても流れにくく、チェルノブイリ事故の例から見ても、今後数10年間以上にわたって高放射線量のまま地表付近に留まると予想される。

  

図1.                                          図2.(縦軸の単位は図1と同じだが、対数でプロットしてある)

【2】 仙台・東京間の高速バスと新幹線車中の放射線量測定結果

4月1日〜3日に仙台―東京間をバスで往復したときに、東北自動車道上の高速バスの車内で測定した放射線量は次の通りである(単位はμSv/h)。

  行き: 仙台 0.14, 白石 0.19, 国見SA 0.29 (車外1.45), 福島 0.53 二本松 0.72, 郡山 0.36, 那須 0.35, 栃木 0.16, 佐野 0.13

  帰り: 川口 0.13, 佐野 0.12 (車外0.28), 宇都宮 0.15, 西郷村 0.49, 矢吹 0.32, 郡山安積PA 0.94, 安達太良SA 0.55 (車外2.96),

      二本松 1.19, 福島松川 0.61, 福島西 0.43, 福島飯坂0.71, 国見IC 0.91, 国見SA 0.59, 白石 0.22

  行きも帰りも、東北自動車道沿いでは二本松付近で最も放射線量が高かった。

上の測定結果と川口からの距離の関係をグラフにして図3に示す。また5月13・14日に新幹線で仙台・東京間を往復したときに測定した車中の放射線量を図4に示す。

  

図3.                                           図4.

これらの値は、車中の座席に座って、検出器を斜め下前方に向けて測定した。検出器を窓側に向けると、もっと高い値になる。トンネルの中では測定値は低くなるが、トンネルに入っている間は測定を中止した。車両によって換気の設定や地面からの高さ、外装の材質や厚さなどが異なり、また行きと帰りでは若干違う場所を通るので、同じ地名の場所で測っても測定値は一定しない。

今回の原発事故による広域的な放射能汚染によって、東京・仙台間を片道移動する間に被曝する放射線量は、日常生活で常に被曝している自然放射線(0.1μSv/h程度)を除くと、新幹線を利用する場合で0.2μSv程度、高速バスを利用する場合は(休憩中に野外で被曝する量も含めて)1μSv程度で、全く心配する必要はない。例えば、航空機で10〜12時間かけて成層圏を飛行して海外に行く場合、宇宙から来る放射線(宇宙線)による被曝量は(太陽活動が穏やかな時期で)10〜20μSv程度、胸のX線写真を1枚撮影すると40〜60μSv以上, バリウムを飲んで胃の透視を1回行うと2000μSv (2mSv)以上も被曝すると言われているから、それらに比べれば全く問題ない。

追記: 2012年8月4日に仙台から東京まで新幹線に乗ったので,車内の放射線量を再測定したみた.その結果は以下の通りである(単位はμSv/h).白石 0.075,福島北 0.195,福島 0.162,郡山 0.179,白河 0.146,那須塩原 0.174,宇都宮 0.095,大宮 0.072.福島〜那須塩原間で高くなる傾向は昨年5月と同様であるが,全体として線量は30〜50%程度下がっている.

【3】 福島県国見町〜浪江町の放射線量測定結果

5月8日に福島県内の国見町から浪江町北部(原発から30 km圏外に限る)のルート沿いで放射線量測定を行った。測定地点の位置を図5に、測定結果を図6に示す。

  

図5.測定地点位置図。1〜27が測定地点。 図6.各測定地点の放射線量(μSv/h、対数スケールで示す)。
地点1は国見町の東北自動車道国見インター出口付近、その後伊達市の旧梁川町、旧霊山町、旧月舘町、
伊達郡川俣町、二本松市の旧東和町、旧岩代町を経て浪江町津島(地点23)に至り、富岡街道を経て川俣
町(地点27)経由で出発点に戻るルートに沿って測定した。

 今回この地域で測定された舗装道路上1mの高さにおける放射線量は、後述する浪江町内やその近辺を除いては、公表されている福島市の値と同程度であり、特別高い値を示した地点はなかった。しかし、どの地点でも舗装道路上1cmの高さにおける放射線量は1mの高さにおける値の数倍から10倍に達し、放射性物質の大部分は空気中にあるのではなく、地面に沈着していることが明らかである。そして、舗装道路上1mでの測定値よりも、草地の上1mで測定した値の方が放射線量が高い場合が多かった。これは放射性物質が葉の表面などについていて、測定機との距離が近いことと、舗装道路より草地の方が降雨などによる放射性物質の流出が少ないためと考えられる。今回の測定値のうち、浪江町津島(地点23)における舗装道路上1mの値は、新聞で報道されている浪江町下津島の大気中の放射線量の値(図2参照)とほぼ同じく、10μSv/h程度を示した。しかし、この地点や次の浪江・川俣町境付近(地点24)の舗装道路上1cmの測定では、100μSv/h程度ないしそれを超える値を計測した。

 この調査から帰宅した後、足の裏がチリチリするような感じが数日間続いた(*)。この地域を歩くと、体の部位のうちでは足の裏が一番強い放射線を浴びることは疑いない。放射線量が高い地域を歩くときは、底の厚い、できれば靴底に鉛板を入れた靴をはくことをお勧めする。 靴底に鉛板(または鉛入りゴム)を組み込んだ靴は、放射線防護用としてではなく、足の運動トレーニング用として1万円前後で市販されている。「鉛の靴」をキーワードとしてネットで検索すれば、靴や中敷きなどの商品がいくつかみつかる。このような商品がどの程度放射線防護の効果を示すか、まだ実際にチェックしていないので定量的には未知数だが、鉛が放射線を遮る効果はよく知られているので、かなりの程度の効果はあると思う。 ただし、片足で1キログラム以上の重量がある靴は、トレーニング用としては有用かもしれないが、相当歩きにくいと思う。

(*)憶測による記述を削除した。

【4】国際線旅客機で飛行中の放射線量(参考資料)

 2011年6月中旬に欧州へ旅行する機会があったので,その往復の機内で放射線量を測定した.測定方法は上の【2】の場合と同じで,測定値は30秒間の積算値を3秒ごとに20回表示させ,それらを平均したものである(つまり各測定値は60秒間の平均値).往路・復路とも機種はB747ジャンボで,翼の後方,中央列の席だった.国際線旅客機は高度約1万メートル(10 km)の成層圏を飛行するが,そこでは地表よりも大気が薄く(気圧は地表の約1/4,260ヘクトパスカル程度),地球外(主に太陽)から来る放射線(宇宙線)が大気にあまり吸収されずに人体に届くため,放射線の被ばく量が多くなる.日本でも欧州でも,地表に停止中の機内の線量は0.07μSv/h(マイクロシーベルト毎時)程度であったが,成層圏飛行中は2〜3μSv/h程度に増加した(図6).日本から欧州に行く11時間の飛行での総被曝量は24μSv程度,欧州から日本に帰る10時間の飛行での総被曝量は20μSv程度だった(偏西風の関係で帰りの飛行時間は行きに比べて約1時間短い).これはそれぞれ胸部X線写真1回分程度の被ばく量に相当する.被ばく量は飛行高度(対流圏〜成層圏下層では高度が高いほど被ばく線量が大きい),飛行経路(赤道地方より極地方の方が被ばく線量が大きい),飛行時間,宇宙線の強度,飛行機の機種(外装の材質や厚さ),座席の位置(窓側の方が被ばく量が大きい)などによって変化する.往路と復路で多少線量が違うのは,恐らく飛行高度の違いと宇宙線強度の時間変化が原因だろう.宇宙線の強度は太陽活動が活発な時期に増加し,特に太陽面で大きな爆発があると桁違いに多くなる.太陽活動は11年周期で変化するが,現在は2013年頃の極大に向けて活動が活発化する時期に当たっており,これから数年間は飛行中の被ばく量が増加すると予想される.なお,地球外から来る一次宇宙線の成分は90%が陽子(水素原子核)で残りがアルファ粒子(ヘリウム原子核)やリチウム,ベリリウム,ホウ素などの原子核であり,それらが空気中の窒素・酸素原子と衝突して発生する二次宇宙線の成分は電子,陽電子,ガンマ線,パイ中間子,ミュー中間子,中性子,陽子,ニュートリノなどである(この項は理科年表に基づく). 機内で測定される放射線は大部分が二次宇宙線のガンマ線であろう.また,太陽面で爆発が起きてから地球で放射線量が増えるまでに要する時間は10分から数時間である.(2011年6月19日追記)

図6.日本−欧州間を飛行中の機内の放射線量と時間の関係(出発から到着まで).

追記: 2012年8月4日〜12日に成田からバンコク経由でオーストラリアのブリスベンまで飛行機で旅行する機会があったので,その間に機内の線量を測定した.行きはバンコク→ブリスベン間のみ,帰りはブリスベン→バンコク→成田で測定した.この経路は,上に述べた日欧間の北極付近を通る飛行経路と異なり,赤道を横切る経路なので,放射線量は少ないことが予想されるが,実際その通りであった.●バンコク→ブリスベン(所要時間8時間30分,放射線量の単位はμSv/h): バンコク空港搭乗口前 0.089,出発後1時間 1.134,2時間 1.108,4.5時間 1.563,6時間 2.015,7時間 2.182,8時間 2.281.●ブリスベン→バンコク(所要時間8時間30分): 出発後1時間 1.526,2時間 1.477,3時間 1.448,4.5時間 1.448,5.5時間 1.363,7時間 1.148,8時間 1.196.●バンコク→成田(所要時間6時間): 出発後0.5時間 1.132,2.5時間 1.470,4時間 1.650,5時間 1.934,5.5時間 2.001.このように,成田(北緯36度)やブリスベン(南緯27度)付近上空では比較的放射線量が高く(1.5〜2μSv/h程度),バンコク(北緯14度)や赤道地域の上空では線量が低い(1μSv/h程度)ことがわかった.ブリスベン付近の線量が行きと帰りでかなり異なるのは飛行高度が違うためだろうと思う.行きは高い高度(12,000 m程度)を飛行したので線量が高く,帰りは低い高度(10,000 m程度)を飛行したので線量が低かったのだと思う.ただし,行きの飛行機はモニター画面が不調で高度を確認できなかった.帰りはオーストラリア上空では高度9750 m付近を飛行していた.

【5】自然界の放射線

 我々はいつも自然界から来る放射線を浴びていて,ずっとその状態で生きてきたわけだから,過剰に放射線被曝を恐れる必要はない.国連科学委員会(UNSCEAR)2000年報告によると,

●外部被ばく(年間)
1.宇宙から        390 μSv     2.地殻から        480 μSv
●内部被ばく(年間)
3.空気中のラドン    1260 μSv     4.食物中のカリ・炭素  290 μSv
計(年間)          2420 μSv (0.28 μSv/h)

もの放射線を我々は毎年浴びている.このうち,宇宙から来る放射線は上記【4】に示すように上空へ行くほど強くなる.また地殻(岩石)から来る放射線は,特に花崗岩地域で強い(日本の地殻起源放射線量分布図参照.産業技術総合研究所の今井 登氏による).これは,花崗岩がカリウム,トリウム,ウランなどの放射性同位体を多く含むためである.ラドンはウランやトリウムの放射壊変で生じる気体元素で,空気中や水中に普遍的に含まれる.半減期は最長でも3.8日(Rn-222)と短いが,常に地中の岩石から供給されているため,野外の空気1 m^3(1立方メートル)中に5〜15ベクレル,室内の空気1 m^3中に40ベクレル程度は常に含まれる.特に石造りの建物の中や地下室はラドン濃度が高い(ラドンは重い元素なので低い場所に濃集する).空気1 m^3中のラドンが200〜400ベクレルを超える場合は居住に適さない(米国では150ベクレル/m^3を許容量とする).ラドンはアルファ線を放出して壊変し,最後には鉛になるが,アルファ線は特に生体への影響が強い(同じ線量でもガンマ線の20倍の影響がある.そのため他の原因に比べてラドンによる被曝量が圧倒的に多くなる).ラドンを多く含む空気を長期間呼吸し続けると肺がんになる危険性が増加するとされる.室内でのラドンによる被曝を少なくするには,換気を励行すればよい.

 空気中にラドンが存在することを簡単に確認するには,次のようなやり方がある.線量計とゴム風船(ソーセージ型の長いものがよい)または食品ラップを用意する.まず線量計で室内の線量を測定し,記録しておく.ゴム風船の場合は,割れない限度まで大きく膨らませて出口を閉じ,風船を空気中で30秒くらい振り回す.画鋲や針などで風船を割り,できるだけ手早くクシャクシャに小さく丸めて潰し,すぐにその直近で線量を測る.ラップの場合は,ケースからラップを1 m程度引き出し,ラップを広げたまま(よじれないように注意して)空気中で30秒間振り回す(阿波踊りの要領で振り回すとよい).その長さでラップを切り,できるだけ手早くクシャクシャに小さく丸めて潰し,すぐにその直近で線量を測る.すると先に測定した線量の2倍〜数倍になるはずである.また,空気中で振り回す前の風船やラップを測定すれば,線量はほとんど増えていないはずである(対照実験).これは空気中のラドンが放射線を出しているために,それ自身とその周囲の原子がイオン化されており,それらが静電気によって風船やラップの表面に吸着されやすいためである.

 カリウムという元素は93.3%のカリウム39と6.7%のカリウム41で構成されており,これらの核種は放射能がないが,0.01%だけ放射性核種のカリウム40を含んでいる.カリウム40はベータ崩壊してアルゴン40とカルシウム40に変わる.カリウムは生物が生きていくために必須の元素であるため,人体にもかなりの量が含まれ,一説には体重70 kgの人で140 g含むという.そうするとカリウム40は人体に14 mg含まれることになり,これによる内部被曝は(ラドンほどではないが)無視できない.炭素も生物に必須の元素で,人体にはキログラム単位で含まれており,その中に放射性炭素(主に炭素14)がごくわずかに(1.2x10^-8%)含まれていて,これが壊変する際のベータ線による被曝も若干ある.

(2011年6月27日追記)


2011年04月22日作成、2014年06月09日更新