人社サロン|三太郎の小径

TOHOKU UNIVERSITY
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[人社サロン インタビュー]

ともに学ぶ者として
NPOの社会的使命に向き合う
東北大学大学院経済学研究科 教授
西出 優子NISHIDE, Yuko
インド貧困地域、子どもたちの青空教室で感じた
NGOと教育の大きな可能性

――さっそく質問させていただきます、まず学生時代にどんなことを志していたのか、あるいはこの道に進んだきっかけ、経緯について教えてください。

西出:そうですね、今まで私の考え方の原点などについて皆さんにお伝えすることがあまりなかったので、今日はいい機会になるのではと思います。

私は沖縄の島で生まれ育ったので、外に出たい、もっと広い世界を見てみたいという思いが強く、その一心で東京の大学に進学しました。1年生のときに、学生寮の仲間といっしょに募金活動をして、集めた寄附金をインドの貧困地域に直接届けるという活動をしました。現地では、NGOの日本人スタッフが精力的に支援活動をしていて、スラムの青空教室では生き生きと目を輝かせて授業を受ける子どもたちの姿がありました。そのときNGOと教育について大きな可能性を感じ、将来自分もこういう仕事に携わりたいと考え始めました。

といいつつ卒業後はほとんど関係ないところに就職して数年間社会人をやっていました。プライベートでは地域活性化に関するボランティアに参加したり、学生の頃の夢を諦められなくて、大学院留学の可能性を探っていました。ちょうど25年前、日本でNPOの新しい法律ができるという時期で、公共政策に関わるNPOや、NPOを支援するNPOなどでボランティアをしたり、志の高い人たちと会ったりしました。そのような中で、国際協力やNGOなどグローバルな海外に目を向ける視点とともに、国内でも身近に解決すべきいろんな社会課題がたくさんあるということにも、あらためて気づかされました。こうして日本国内の状況を海外に発信したり、その架け橋になりたいという思いが強くなりました。

その頃、アジアの国際会議(香港)に参加し、環境保全・廃棄物減量などに取り組むNPOの代表の人といっしょに、環境やリサイクルの活動についてのケーススタディを英文の冊子にまとめる機会をいただいたり、またアメリカNPOの税制度について学ぶプロジェクトチームで翻訳をしたり、行政やプロジェクトの参考書と言われる「実用重視の事業評価入門」を翻訳するチームに参加させていただいたり、といろいろな機会をいただくうちに、もっとNPOについて深く学びたいと思うようになりました。

当時、アメリカがNPO先進国と言われていましたので、アメリカの大学院に行ってNPOについて学ぶという目標がはっきりしてきました。ただそのときは研究者になるという考えはまったくなく、戻ってきたら自分自身NPOの実務家として地域活性化に役立つ仕事をしていきたいと考えていました。

こうして2000年にアメリカのシラキュース大学 公共経営大学院の修士課程に進みました。アメリカでNPOを学ぶ場合には、いろいろな選択肢がありますが、私はこの公共経営大学院というプログラムで学びました。そこでは大学や地域がNPOと連携しながら、また教員や学生もNPOといっしょに関わりながら、さまざまな組織や地域の課題解決に取り組んでいました。このとき私は、日本でも同じようなやり方が有効ではないかと考え、修士論文のテーマとして取りあげ、その実現可能性を探っていました。

アメリカで失われたという人のつながり
日本ではどうなっているのか

西出:そんなときに今の研究者になるきっかけとなった出会いがありました。「ボウリングアローン」という有名な著作を書いたハーバード大学のロバート・パットナム教授が、シラキュース大学で講演をされたのです。
この本のタイトルは、アメリカの文化を支えた市民のつながりの衰退を象徴するものでした。かつて人種や年齢、職業を超えた絆が育まれ、楽しいコミュニティの場だったボウリング場。しかし今ではそれが失われ、みんな「孤独なボウリング」をしている、という表現です。
私が知っているアメリカは、市民活動が活発でいろいろな問題解決に市民が自発的に一生懸命取り組んでいる、そんなイメージでした。パットナム教授の実証研究によると、そのアメリカで実はこのソーシャルキャピタル(社会関係資本)と呼ばれる人と人とのつながり、あるいは信頼や規範やネットワークなどがどんどん衰退しているというもので、私はけっこうショックを受けました。アメリカではそうして人と人とのつながりが失われ、コミュニティが衰退していると言われている。それでは日本は、今いったいどうなっているんだろう。そう考え始めたことが、私の研究への道の最初の一歩でした。

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西出 優子[にしで・ゆうこ]
東北大学大学院経済学研究科 教授
専門分野/非営利組織論・ソーシャルキャピタル論
●略歴/2000年6月〜2002年8月シラキュース大学(米国)公共経営大学院修士課程、〜2007年3月大阪大学大学院国際公共政策研究科(博士号取得)、2007年東北大学大学院経済学研究科准教授、 2017年東北大学大学院経済学研究科教授
●著書/「Social Capital and Civil Society in Japan」(2009年)、「はじめてのNPO論」(共著2017年)、「ケースに学ぶ経営学[第3版]」(共著2019年)など
●委員歴/宮城県民間非営利活動促進委員会委員、日本NPO学会理事、せんだいみやぎNPOセンター理事、東北圏地域づくりコンソーシアム監事などを歴任
●受賞/2004年米国NPO学会Emerging Scholar賞、2010年第8回日本NPO学会優秀賞、2020年度総長教育賞

【動画】研究者インタビュー
https://www.youtube.com/watch?v=OnJm_QxvLsA

【動画】教員メッセージ「社会を変える非営利組織(NPO)」
https://www.tnc.tohoku.ac.jp/online-opencampus/2022/economics/nishide/