人社サロン|三太郎の小径

TOHOKU UNIVERSITY

――NPOについて深く学びたいという思いからのアメリカ留学。まさに研究者の道へのきっかけをつくってくれた大学院留学となったわけですね。日本に戻ってからのアクションについてはどのように考えていましたか。

西出:パットナム教授の研究との出会いは、ソーシャルキャピタルという概念への出会いでもありました。このソーシャルキャピタルは、健康や幸福・安心安全、あるいは経済成長など、様々なプラスの成果を生むと言われていました。それでは、NPOはこのソーシャルキャピタルをつくりあげていく役割を果たせるのか。ソーシャルキャピタルが豊かな地域と低い地域、その環境の違いはどこからきているのか。私の思考の中でそんな疑問がいろいろ出てきたので、次のステップとしてはNPOやソーシャルキャピタルについて日本で研究している大阪大学大学院国際公共政策研究科の山内直人教授のもとで研究をしようと考えました。

アメリカでNPO関係の学会に参加したときに山内先生が日本から学会に参加していたことが、大きな縁となりました。大阪大学大学院博士課程では、日本におけるソーシャルキャピタルとNPOとの関係を、主に災害復興や環境団体のケーススタディなどを通して検証していきました。また海外におけるNPOやソーシャルキャピタルの状況について調査する機会にも恵まれました。こうした調査研究を英語で博士論文に取りまとめ、2007年に博士号を取得しました。

その後東北大学に准教授として着任し、博士論文をふまえた著作 Social Capital and Civil Society in Japan を2009年に東北大学出版会より刊行させていただき、私の研究者としての大きな足跡となりました。それまで、日本の環境団体の取り組みなどについてのケーススタディを英語で発刊して、英語で発信したというようなことは、あまり行われていませんでした。日本のケースはアジアであまり知られていませんでしたが、紹介し始めると「日本ってこんなにすごい取り組みしているんだ」という新しい発見を伝えることができました。「グッド・プラクティスの中に学びの可能性がある」「グローバルに広がる可能性を考えて英語で書くことにより国際的にも発信できる」という考えに至りました。これが今につながる研究のテーマであり、目指していたことです。

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西出教授の著作・論文・報告書など





NPOや社会イノベーターを
大事に育てていく人材マネジメント

――それでは研究者として、これからも継続して取り組んでいくライフワークのようなものについては、どのように考えていますか。

西出:ライフワークというとすごく大きなテーマなので、私自身はっきりこれだと明確に言語化されていないということに気がつき思いを巡らせていますが、自分がこれまでやってきたこと、考えてきたこと、自分自身の価値観などもふまえると、4つのキーワードになるかと思います。「ウェルビーイング」「NPO」「ソーシャルキャピタル」「多様性と包摂」。これからもずっと見つめていくであろうビジョンと言ってもいいかもしれません。

「ウェルビーイング」をかみくだいて言うと、人がみな、誰でも自分らしく学ぶことができ、どんな仕事をしても、どんな生活でも、自分らしく働ける、暮らせる、ということです。広い意味での幸福ということなんですが、心身ともに幸せで、満ち足りた個人であり組織であり地域であり社会であること。そこを目指すということです。そこに向けてNPOや、多様性と包摂、ソーシャルキャピタルの役割をどう考え、どう動かしていけば実現できるだろうか、ということを探っていくことだと思っています。

ただ、研究者として取り組むことに特化しようとは思っていません。教育者としても、そして一人の市民としても取り組んでいきたいなという思いがあります。今いる場所が大学なので、NPOの役割、社会的使命とは何かということを考えるとともに、教育者として、またともに学ぶ者として、これからNPOの研究をしたり実際に活動をするような人材を輩出していくために何が必要か、どうしたら促進されるかということを考えています。とくに、NPOや社会イノベーター、社会を変えようと取り組んでいる人たちを、どのように育成したり輩出することができるかという人材マネジメント教育が一つの大事なテーマになってきました。

――ここで、このNPOゼミと直接関わりがあることと思いますので、あらためて確認ですが、非営利組織論(NPO論)というのは、そもそもどういった内容を扱うものなのか、説明してください。

西出:NPO論とは、まず研究の対象がNPO法人だけに限りません。非営利組織・NPO・NGO・市民社会・社会的企業・ボランティア・個人の寄付まで含まれます。こういった組織や人の行動が対象になります。研究アプローチとしては、経済学・経営学だけではなく、社会学・政治学・公共政策・社会福祉など、いろいろな学問分野で研究されています。また、社会的課題は多岐にわたっているため、NPO研究には分野を横断する学際的な特徴もあります。
経営学においては、ドラッカーが、非営利組織と企業の最大の違いはNPOにはボランティアが存在することだと言っています。NPOの人材マネジメントをどうするか、ボランティアでも有償・無償あるがどう管理するのか、リーダーシップや組織をどう機能させていくのか、経営のあり方をどうするか。これらを考えていくのが、経営学におけるNPO論です。学際的にいろいろな学問領域を組み合わせたり、あるいはそこを超えて研究していくことも多いと思います。アメリカの大学院では経営学と公共政策の中間のプログラムで、私の専攻は「パブリック&ノンプロフィットマネージメント」公共経営とNPO経営です。

――それでは最後に、NPOについての教育面での取り組みについて、先生の思いを聞かせてください。

西出:教育面での取り組みは、まさにゼミ生の皆さんと一緒にやってきたことです。非営利組織論ゼミでは、学生の皆さんの主体的な活動、課題解決型学習のプロジェクトを行うというやり方で12年やってきました。いくつかのグループに分かれて自分たちでプロジェクト課題を設定し、その解決に向けていろいろな実践活動を行うというものです。最初は年に1回ほど単発のイベントを実施するというものでしたが、今では通年の企画プロジェクトに発展してきたので、すごく感慨深いです。全学の学部1年生が受けたNPO関連の基礎ゼミも、同様のやり方で行いました。
こうした活動を続けているうちに、皆さんの中で実際にNPOに関わる人、ボランティアをする人が出てきたり、学生団体を自ら立ち上げる人、NPO研究者として国際学会で発表する人など、多方面に広がりやつながりが出てきました。研究と実践の両面で活動している、そんな若手の有望な皆さんを輩出することができたことは、教育面での貴重な成果だと思います。皆さんと出会い、地域の人たち、世界の人とつながり、ありがたいご縁をいただいたからこそできていると感謝しています。
今日のこのインタビューの進行をお願いした大学院NPOゼミの峯村さんも、学部1年生のときの基礎ゼミから、仙台市や仙台のNPOが抱える課題に対して学生の視点から解決策や解決へのアイデアを提案しようとがんばっていましたが、そのときのことも含めて何かコメントしてもらえますか。

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今回のゼミの進行役 峯村さんは、学部1年のとき西出教授の基礎ゼミに参加した。