指定国立大学災害科学世界トップレベル研究拠点

東北大学東北アジア研究センター
災害人文学ユニット

Core Research Cluster of Disaster Science

Center for Northeast Asian Studies Disaster Humanities Unit

イベントレポート

2018.10.09
{報告} 2018年度第2回災害人文学研究会「災害被害者とは誰か?—阪神地域の事例からリスク/ヴァルネラビリティを問い直す」(2018/9/28 開催)

日時:2018年9月28日(金)17:00~19:00

場所:東北アジア研究センター 第2セミナー室

講師:稲津秀樹(鳥取大学地域学部)

主催: 指定国立大学災害科学世界トップレベル研究拠点、東北アジア研究センター災害人文学ユニット

概要:

2018年度第2回災害人文学研究会は、稲津秀樹氏を講師として招き、「災害被災者とは誰か?—阪神地域の事例からリスク/ヴァルネラビリティを問い直す」と題する研究会を実施した(参加者6名)。

稲津氏は、阪神・淡路大震災の被災地域のフィールドワークで出会うこととなった多様な人びとの生活を手がかりとしながら、震災の―そして震災以前にも遡る―社会的経験を捉え返すことを試みる。

その際、事例としてとりあげられるのは、幾度も氾濫を起こしてきた河川をめぐる人びとの語りとその「音」である。自身も幼少期に聞いていたはずのその「音」は、しかしながら、「聞こえぬ音」として構造的に不可知化されていた。マイノリティとの出会いを通じて得られたこの気づきをもとに、稲津氏はその地域の社会関係や履歴のなかに埋め込まれている「音」をキーワードとして、従来の災害研究におけるリスク論やヴァルネラビリティ論を再考する必要を強調する。そのうえでしばしば「被災者」としてひとくくりにされる経験のなかにマイノリティにとっての災害経験を捉え返す可能性を提示する。

報告後の議論では、以下の論点について議論が深められた。

 

● 防災研究におけるヴァルネラビリティ概念と報告者の想定する文脈におけるそれとの距離。後者において初めて描写可能なリアリティと課題

● 方法論として提示されたSociological Poetryというとき、その「詩」を詠むのは誰か。

● 災害をめぐる苦しみの表象不可能性と表現可能性

● 地域社会の関係や歴史が具体的な出来事との邂逅のなかで顕在化する、その契機としての災害

● リスク/ヴァルネラビリティ論と同様にレジリエンス概念の文化―社会的側面とそのポリティクス

● ハザードマップが可視化/不可視化するもの。不均衡に配分されるモビリティ(移動可能性)をいかに考察することが可能か

● 「音」の社会性と共振

 

社会学、人類学、文学といった学問領域を越境して、災害にいかなる回路から接近可能かを考察するうえで多くの示唆が与えられた研究会だった。

報告:福田

 

 

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