指定国立大学災害科学世界トップレベル研究拠点

東北大学東北アジア研究センター
災害人文学ユニット

Core Research Cluster of Disaster Science

Center for Northeast Asian Studies Disaster Humanities Unit

イベントレポート

2018.10.10
{報告} 第3回災害人文学研究会「ドキュメンタリー映画『廻り神楽』を観る」(2018/10/2 開催)

日時:2018年10月2日(火)18:15〜20:30

場所:東北大学川内北キャンパス講義棟B棟101室

登壇者: 遠藤協(『廻り神楽』共同監督兼プロデューサー)

北村皆雄(同作エグゼクティブプロデューサー)

ファシリテーター:小谷竜介(東北アジア研究センター客員准教授、東北歴史博物館主任研究員)

主催:指定国立大学災害科学研究拠点

東北アジア研究センター災害人文学ユニット

 

概要:

第3回災害人文学研究会が開催された。東北大学の教員・大学院生及び、一般参加者計51名が東北大学川内北キャンパス講義棟B棟101室に集い、ドキュメンタリー映画『廻り神楽』を鑑賞した。その後の意見交換会では遠藤協氏、北村皆雄氏が登壇し、小谷竜介氏がファシリテーターをつとめた。

上映作品『廻り神楽』は岩手県宮古市に伝わる国指定重要無形民俗文化財の「黒森神楽」の神楽集団についてのドキュメンタリー映画である。黒森神楽では黒森神社の権現さま(獅子頭)を奉じ、北は久慈から南は釜石まで、岩手県三陸沿岸の150kmにおよぶ地域を巡ることから、「廻り神楽」というタイトルがつけられた。津波常襲地域にありながら340年以上続いてきたこの芸能は、厄払いや家内安全、供養、新築祝いなど、沿岸地域の生活にかかわるさまざまな願いに応えてきたという。

東日本大震災の大きな被害を受けることとなった岩手県沿岸部において、神楽衆は震災直後から人々を元気づけ亡き人の魂を慰めるため巡業を続けてきた。本作はその神楽衆を追い、震災から6年を経た生活の変化を描き出している。

上映後の意見交換では、まず北村氏が1981年に設立し遠藤氏が所属する映画制作会社「ヴィジュアルフォークロア」について紹介があった。「映像で民俗を伝える」ことを趣意とする同社は、被災地を撮影地とした本作においても、震災についての映画ではなく、あくまで民俗学的視点から人々の精神的な支えとして神楽をとらえることを試みたという。

その後日本民俗学を専門とする小谷氏も交えて、亡き人に捧げられる神楽念仏や、東北地方で信仰される「オシラサマ」と権現さまの関わり、黒森神楽の巡業形態の特殊性などについて活発な意見交換が行われた。

本作内では黒森神楽の巡業地に伝わる民話が効果的に朗読される。この表現の意図について、遠藤氏は明治三陸大津波の数年後に民俗学者の柳田國男が『遠野物語』を編んだことに触れ、100年後には昔話となるであろう現在の神楽衆の姿を、三陸沿岸部で途切れなく続いてきた文化の延長線上にあるものとして表したと語った。

震災に触れながら震災を主題としない本作は、岩手県沿岸部の人々の暮らしと精神文化の根源にある風景を記録として残し、後世に伝える映画である。地域社会の文化的復興に映画が果たす役割への示唆を与える研究会だった。

報告:是恒

 

 

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