指定国立大学災害科学世界トップレベル研究拠点

東北大学東北アジア研究センター
災害人文学ユニット

Core Research Cluster of Disaster Science

Center for Northeast Asian Studies Disaster Humanities Unit

イベントレポート

2018.12.10
{報告} 第4回災害人文学研究会「スマトラ島沖地震の記念行為/遺構にみられるアチェの『敬虔』の文脈について」(2018/10/30 開催)

日時:2018年10月30日(火)13:00〜16:00

報告者:坂口奈央(東北大学文学研究科博士課程)

福田雄(東北大学東北アジア研究センター)

高尾賢一郎(日本学術振興会)

場所:東北アジア研究センター 第2セミナー室

コメンテーター:西芳実(京都大学東南アジア地域研究研究所)

主催: 東北アジア研究センター災害人文学ユニット

 

概要:

東日本大震災に先立つ7年前に、インドネシア・アチェ特別州の沖合で、スマトラ島沖地震(2004年)が発生した。10万人を超える死者が生み出されたこの地で、今日アチェの人びとはいかに災禍やその後の生活と向き合っているのか。近年アチェでフィールド調査を始めた研究者の報告、そして長年アチェの調査に従事してきた研究者の意見交換を通じて、災害人文学の様々な立場から今日のアチェを捉え返すことを目的として本研究会は開かれた。

 

 

最初に登壇した坂口奈央氏は、社会学の立場から、震災遺構に着目した調査報告を行なった。坂口氏の主たる調査地である岩手県大槌町の震災遺構をめぐる議論を踏まえたうえで、坂口氏はバンダ・アチェ市の沿岸地域における震災遺構のあり方を特徴づけるとともに、漁村の生活の論理に即した理解を試みた。

続いて登壇した福田雄は、2015年〜2017年までのアチェ州主催の津波記念式典を事例としてとりあげ、そこにみられるアチェの災害理解を描き出した。福田によれば、これら記念式典における語りにはイスラームに共通する津波の宗教的理解が認められる一方で、他方ではアチェの内戦をめぐる個別の文脈が認められるとし、災害に先立つ歴史的背景にまで遡りながら考察する必要性を主張する。

最後の報告者である高尾賢一郎氏は、イスラーム現代思想の立場から、氏のこれまでの研究を振り返るとともに、他の中東地域との比較のなかでアチェの宗教警察を位置づける報告を行なった。災害を含めた社会環境の変化、さらには世代ごとの意識の移り変わりのなかで、宗教警察という社会制度がいかに維持され変容していくのか、今後の調査の方向性が示された。

 

 

これらの報告を踏まえ、津波以前の1990年代よりアチェで調査研究に従事してきた西芳実氏よりコメントがなされた。まずはじめに西氏は今日の三つの報告が、(大文字の)復興後の復興にかんするものであったとし、インフラや諸制度の整備を経たのちに出てくるようになった個別の語りに着目することの重要性を指摘した。そのうえでアチェ研究の意義として、国際的な枠組みにおける防災の必要性、東日本大震災に7年先行する取り組み、心のレジリエンス(回復力)といった三つの点をあげた。その後3人の報告者に対する個別のコメントがなされた。

 

 

これまでに蓄積されてきた調査研究および研究者ネットワークに学びつつ、現代アチェの諸問題を捉え返すの重要性を感じさせられる場だった。

報告:福田

 

 

Top