日時:2018年11月13日(火)18:15〜20:30
場所:東北大学川内北キャンパス講義棟B棟101室
登壇者: 松原保(『被ばく牛と生きる』監督)
小倉振一郎(東北大学大学院農学研究科陸圏生態学分野教授)
主催:東北大学東北アジア研究センター
共催:指定国立大学災害科学世界トップレベル研究拠点 災害人文学ユニット
概要:
第5回災害人文学研究会が開催された。東北大学の教員・大学院生及び、一般参加者計54名が東北大学川内北キャンパス講義棟B棟101室に集い、ドキュメンタリー映画『被ばく牛と生きる』を鑑賞した。その後の意見交換会では松原保氏、小倉振一郎氏が登壇した。
『被ばく牛と生きる』は、福島第一原子力発電所事故後に国から通達された家畜の殺処分命令に反し、被ばくした牛たちを生かそうとした畜産農家の活動に密着したドキュメンタリー映画である。経済的負担、精神的苦痛や葛藤を抱えながらも、居住制限区域で暮らし、あるいは仮設住宅から通い続けて「被ばく牛」の世話を続けた畜産農家を5年にわたって取材している。先祖代々畜産を続けてきた農家にとって牛は家族にも等しい存在であり、故郷の象徴である。食肉として経済価値がなくとも「原発事故の生き証人」である牛を生かし続けることで、世界で他に例のない「低線量被ばくによる大型動物への影響」の研究に貢献し、研究者との協働により人類の未来の安全を守りたいという思いを伝えている。
上映後の意見交換では、東北大学農学部で放牧・飼料作物の生産・家畜の行動・家畜の福祉を研究対象とする小倉氏に、被ばく牛の現状と課題について意見を伺った。動物愛護法によりペットは避難させられるが、家畜は避難させられない。家畜の全頭避難が困難である要因として、放射性物質により汚染された家畜を受け入れることへの地域の不安と、受け入れ先の確保を困難にするほど日本の畜産の規模が拡大しているとの説明があった。また、松原氏から被ばくした牛を放射性物質に汚染されていない水と餌で飼えば、飼い直すことは可能であると伝えられた。
小倉氏はまた、動物福祉の観点から殺処分の問題を指摘した。松原氏からは、餓死させるよりは安楽死させるほうがいいと殺処分の同意書にサインせざるをえなかった農家の困難な心情が伝えられた。
災害という非常事態下で明るみになった現代社会における人と家畜の関係を見つめ直し、災害に強い生産システムの構築の必要性や動物福祉という、原発事故後のより良い社会のあり方へ示唆を与える研究会であった。
報告:是恒