指定国立大学災害科学世界トップレベル研究拠点

東北大学東北アジア研究センター
災害人文学ユニット

Core Research Cluster of Disaster Science

Center for Northeast Asian Studies Disaster Humanities Unit

イベントレポート

2019.11.05
{報告}2019年第2回災害人文学研究会「ファインダー越しの対話―記録が橋渡しする過去・現在・未来―」(2019/10/16開催)

日時:2019年10月16日(水)13:30〜17:30

場所:BOTA Theater(山形県山形市七日町2-7-18)2F

登壇者:吉田茂一(群像舎)

黒石いずみ(青山学院大学総合文化政策学部・教授)

是恒さくら(東北大学東北アジア研究センター・学術研究員)

原田健一(新潟大学人文社会科学系附置地域映像アーカイブ研究センター・センター長)

高倉浩樹(東北大学東北アジア研究センター・センター長/教授)

 

概要:

2019年10月16日(水)に山形市内のBOTA Theaterにて、災害人文学第2回研究会「ファインダー越しの対話―記録が橋渡しする過去・現在・未来―」を開催した。本企画は、2019年山形国際ドキュメンタリー映画祭のワークショップとして行われ、10名ほどが参加した。

 

本研究会は、2011年の東日本大震災後に写真や動画として記録されたドキュメンタリー映画や映像作品を題材として取り上げ、震災アーカイブスの活用の可能性を映像制作者の視点から検討するものである。東日本大震災以降、数多くの映像記録が残され映像作品として発表されている。震災発生から8年が経ち、近年、発表された映画・映像作品には、震災以前の地域の歴史文化と現在の生活の連なりを伝える作品、被災地で暮らす人たちの心情を丁寧に描き出した作品が散見される。このような作品は、震災以後の歳月の中で、制作者自身が、時には数年間をかけて被災地に身を置き、個々の被写体との関係性を構築する体験を経て制作されている。本企画では、大震災の発生から現在に至るまで、被災した地域と継続的に関わり活動を続けてきた映像制作者、地域に残された写真記録の見直しや映像制作の活動によるまちづくりを実践・検証する研究者の活動を通して、過去から現在を俯瞰し、地域の未来へ向かう対話を橋渡しする〈記録行為〉〈記録の見直し〉の可能性について考えることを目的として行われた。

 

 

当日は、2012年以降、野生生物や地球環境をテーマに記録映像作品を発表してきた株式会社群像舎(1981年設立)の2017年発表のシリーズ最新作「福島 生きものの記録⑤」を上映し、3名の登壇者とコメンテーターを交えて総合討論を行った。まず、作品を上映ののち、当作で音声を担当した群像舎の吉田茂一氏に、監督である岩崎雅典氏の作品に対する思いや、撮影地である福島での撮影過程やその場所を舞台に研究活動を行う科学者たちとの出会いや制作に至る経緯についてお話いただいた。次いで、青山学院大学総合文化政策学部の黒石いずみ氏に「記録と対話からまちづくりへ」という題目で発表いただいた。発表では、氏が震災後に赴くようになった気仙沼での活動について報告されたほか、防波堤をテーマに学生たちが撮影・製作した映像作品が上映された。続いて、本研究会を企画した東北大学東北アジア研究センターの是恒さくら氏によって、災害人文学ユニット活動報告が行われた。コメンテーターには、新潟大学人文社会科学系附置地域映像アーカイブ研究センター・センター長の原田健一氏をお招きし、各登壇者へのコメントをいただいたのち、東北大学東北アジア研究センター・センター長の高倉浩樹氏の司会で総合討論が行われた。

 

総合討論では、主に制作者の視点から、映像記録と記憶を想起する作品づくりについて討論が行われた。例えば、黒石氏からは「記憶」と「記録」にかかわる作用や被災した当該社会への影響、さらに被災地域の外部の人間であり「他者」として関わり続けることによる表現の可能性が語られた。また是恒氏は、連鎖し繰り返される自然災害に対して媒体にもなり得るドキュメンタリー映画の可能性や、芸術家が作品として非被災者の人びとを取り込むことで生まれる記憶の作用について話がなされた。さらに、映像作品の持つインパクトによる、記憶の固着化についても批判的な討論が行われ、映像を単に伝承するのではなく、映像を通して想像力を伝承する必要性が指摘された。そのため映像作品の制作者は見る人に「余白」を残す作品をつくる必要があること、そして固着化したイメージを解き剥がすことができうる作品づくりを通して、制作者と視聴者がつながる期待が高まることが討論された。その営為は、制作者・芸術家だけではなく研究者の研究・報告活動とも非常に類似点が多いこともわかった。

 

 

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