
沈み込み帯の流体から形成されたひすい輝石岩
1970年代以降のプレートテクトニクスの確立に伴い、地球表層の変動ダイナミクスの理解は大きな進歩を遂げてきました。海洋地殻が大陸地殻の下に潜りこみ生ずる「プレート沈み込み帯」は、島弧火山活動や地震活動を理解する鍵となるだけでなく、地球表層とその内部との物質のやり取りや元素循環を明らかにする上で非常に有用な研究対象です。

低温高圧型変成岩の露頭 (別子にて)

沈み込み帯に特徴的な青色片岩の薄片写真
私たちは、プレート沈み込み帯で形成された変成岩に対し組織観察や化学組成・同位体組成分析、年代測定などを行うことによって、そのテクトニクスや変成流体挙動を体系的に理解することを目指しています。蛇紋岩メランジュなどの沈み込み帯に特徴的な岩体から、スラブが低温高圧型変成作用を被り生じる青色片岩・エクロジャイト、そして沈み込み変成流体と密接に関連した鉱物である翡翠に至るまで、沈み込み帯およびその痕跡を様々な空間スケールで捉え研究を行っています。さらには天然試料の解析のみならず、ダイヤモンドアンビルセル・顕微ラマン分光法を組み合わせたその場観察実験によって、高温高圧条件での元素挙動の研究にも取り組んでいます。

分析の様子 (弊研究室所有の顕微ラマン分光装置)
研究対象はプレート沈み込み帯にとどまらず、大陸衝突帯での変成作用・岩石相互作用や大陸地殻の進化過程にも及びます。原生代以降地殻がどのように変動し現在の地球が形作られたのか。岩石学的・地球化学的アプローチを軸として地球変動史を理解することを目指し、日々議論を重ねています。
惑星「地球」の大陸地殻は太古代・古原生代の古い地殻の一部を保持し、2億年より若い海洋地殻とは化学組成と形成年代に関して極めて対照的な存在です。島弧火成活動による大陸地殻形成とその改変、プレート収束域での構造浸食によるマントルへの輸送、大陸地殻の安定化とクラトンを核とした造山帯累帯成長、クラトンの「根」の実像などに関して、花崗岩、砕屑性ジルコン、下部地殻・リソスフェアマントル捕獲岩を総合的に解析しています。
【統計・モデリング】
計算機技術の進歩と数理・情報科学の進展は固体地球科学の分野にも大きな恩恵をもたらしています。プログラミング言語(R・Python・MATLAB)を用いた統計解析法・データ駆動型解析手法の開発、スペクトル解析のためのUIソフトウェア開発・改良に積極的に挑戦し、実践の研究に応用しています。さらに、先端的な分析に耐えうる前処理システム環境整備・ハードウェア開発・改良などにも取り組んでいます。

噴火の映像・空振同時観測 (イタリア・ストロンボリ火山)

カルデラ形成時に放出された大規模火砕流堆積物
【噴火様式・火山活動史】
山噴火は地球上で最もダイナミックな現象の一つです。地下深部で生じたマグマは上昇過程で発泡や鉱物の晶出を経て地表に達し、あるものは空中高くに噴き上げ、あるものは溶岩流となります。噴火はたとえ小規模でも尊い人命を奪うことがあり、大規模噴火なら地球規模の気候変動を起こし、生物の大量絶滅をもたらすことすらあります。火山活動の理解は私たちがこの地球に暮らしていく上で欠かせません。
噴火の様式や規模はマグマ自体の性質(流動性・発泡度・結晶量)や、噴火時に水と接触したかなどの外的要因に依存します。私たちは火山観測や粘性実験を行い、火山活動度の評価や噴火・火山性地震・溶岩流のメカニズムの解明に取り組んでいます。さらに過去の火山噴出物を地質学的に調査し、火山灰の重なりから数万〜数十万年間の噴火推移の復元を試みています。特にカルデラを形成するような巨大噴火は観測事例がないため、地質調査を基に東北地方のカルデラ火山の発生頻度・メカニズムを研究しています。