PRG紹介

 私たちが住んでいる地球。その内部はどのようになっているのでしょうか?6400 kmの半径を持つ地球に対し実際に人類が掘削出来た深さはわずか10 kmでほとんど直接内部を見ることは出来ていません。しかし、私たちの生活を脅かす巨大地震はそれよりずっと深いところで起きています。
 ところで、地球表層を覆う地殻の岩石は多様な姿をしています。これら地殻の岩石はプレート運動によって出来たり、火山噴火によって誕生したり成因は色々ですが、地球のダイナミックな活動の結果として生み出されたものであることは間違いありません。そして、これらを1つずつ調べ、成因や起源を解き明かせば岩石を生み出した地球のダイナミックなすがたを知ることができます。私たち地殻化学講座 (PRG)は大きなスケールで地球内部の様子と動きを捉えるため、岩石や鉱物という小さい世界に目を向けて活動しています。

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PRGの研究

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日本のプレート沈み込み帯の模式図 (日本列島7億年ポスターより)

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沈み込み帯の流体から形成されたひすい輝石岩

 1970年代以降のプレートテクトニクスの確立に伴い、地球表層の変動ダイナミクスの理解は大きな進歩を遂げてきました。海洋地殻が大陸地殻の下に潜りこみ生ずる「プレート沈み込み帯」は、島弧火山活動や地震活動を理解する鍵となるだけでなく、地球表層とその内部との物質のやり取りや元素循環を明らかにする上で非常に有用な研究対象です。

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低温高圧型変成岩の露頭 (別子にて)

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沈み込み帯に特徴的な青色片岩の薄片写真

 私たちは、プレート沈み込み帯で形成された変成岩に対し組織観察や化学組成・同位体組成分析、年代測定などを行うことによって、そのテクトニクスや変成流体挙動を体系的に理解することを目指しています。蛇紋岩メランジュなどの沈み込み帯に特徴的な岩体から、スラブが低温高圧型変成作用を被り生じる青色片岩・エクロジャイト、そして沈み込み変成流体と密接に関連した鉱物である翡翠に至るまで、沈み込み帯およびその痕跡を様々な空間スケールで捉え研究を行っています。さらには天然試料の解析のみならず、ダイヤモンドアンビルセル・顕微ラマン分光法を組み合わせたその場観察実験によって、高温高圧条件での元素挙動の研究にも取り組んでいます。

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分析の様子 (弊研究室所有の顕微ラマン分光装置)

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ざくろ石が持つ組成累帯構造 (Fukushima et al., 2021a)

 研究対象はプレート沈み込み帯にとどまらず、大陸衝突帯での変成作用・岩石相互作用や大陸地殻の進化過程にも及びます。原生代以降地殻がどのように変動し現在の地球が形作られたのか。岩石学的・地球化学的アプローチを軸として地球変動史を理解することを目指し、日々議論を重ねています。

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有人潜水調査船しんかい6500

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研究室メンバーと調査船よこすか

 海底火山や海洋島の岩石、それは我々が見たことがない地球内部の様子や、地球の歴史、将来の地球像をも物語るたいへん貴重な研究対象です。しかしそれを手に入れるためには、その名の通り海洋、しかも水深何千メートルもある大海原に出なければ手に入れることができません。調査船で目的地の海上まで赴き、時には潜水調査船に乗ったりして岩石などを採取します。低気圧や台風が近づいたときには船は大きく揺れ、避難することもあります。大変な作業です。太平洋、インド洋、フィリピン海を中心とした海域を主に海洋研究開発機構調査船「よこすか」に乗って調査します。また、同有人潜水調査船「しんかい6500」によって潜水調査を行います。何人もの研究者や乗組員が、数週間にわたり海の上で生活します。四方を海に囲まれての生活は学生研究員にとって二度とない経験となります。多くの人々の協力のもと行われる調査航海によって届けられる岩石試料や深海の映像、地形データは、海洋底に限らずプレートテクトニクスを考える上で重要なリソスフェアやアセノスフェアの性質を知る手がかりとなるのです。当研究グループでは、上部マントルの性質や地震のメカニズムを解明するきっかけとして注目されている「プチスポット火山」と呼ばれる新種の海底火山やハワイをはじめとする海洋島、それらがもたらすマントル捕獲岩などの研究が盛んです。

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調査の様子。露頭はチャートに貫入したアルカリ岩 (犬山にて)

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北海道・根室の放射状節理露頭 (車石)

 私たちの研究フィールドは海洋底に限らず、過去の深海底が地殻変動によって現在陸上にある付加体 (紀伊半島南部や北海道東部、沖縄諸島の海沿いなど)にある緑色岩や玄武岩、オフィオライトの研究も行っています。緑色岩とはその名の通り、緑色の岩石で、玄武岩などの岩石を構成する有色鉱物が粘土鉱物になったものです。オフィオライトとは、海洋プレートが地殻変動によって大陸に衝上し地表に分布するものです。これらはかつて海洋地域に分布していた海洋島や海山、海洋プレートの一部分と考えられ、緑色岩やオフィオライトを研究することは地球の変動史を紐解く上で重要です。

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EPMA分析の様子 (東京大学大気海洋研究所にて)

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採取された斑レイ岩質捕獲岩の偏光顕微鏡写真 (クロスニコル)

 私たちは採取した岩石試料を薄片にして組織観察を行います。また、様々な分析機器を用いて岩石や鉱物の化学組成分析を行ったり、岩石ができた年代を測定したりします。ひとつひとつの岩石を地道に分析し得られた多種多様な情報をもとに、過去と現在、そして未来の地殻変動を解き明かそうとしています。その研究をしていると、まるでタイムマシンに乗っているような感覚になります。

最古(約19億年前)の超大陸の成長記録 (Ganbat et al., 2021)

日本列島の過去のマグマ活動の証拠 (Pastor-Galán et al., 2021)

惑星「地球」の大陸地殻は太古代・古原生代の古い地殻の一部を保持し、2億年より若い海洋地殻とは化学組成と形成年代に関して極めて対照的な存在です。島弧火成活動による大陸地殻形成とその改変、プレート収束域での構造浸食によるマントルへの輸送、大陸地殻の安定化とクラトンを核とした造山帯累帯成長、クラトンの「根」の実像などに関して、花崗岩、砕屑性ジルコン、下部地殻・リソスフェアマントル捕獲岩を総合的に解析しています。
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ざくろ石中のY濃度の理論曲線とパラメータ変化に対する依存性 (Fukushima et al., 2021a)

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ベイズ統計学に基づく砕屑性ジルコン年代学の評価 (Pastor-Galán et al., 2021)

【統計・モデリング】
 計算機技術の進歩と数理・情報科学の進展は固体地球科学の分野にも大きな恩恵をもたらしています。プログラミング言語(R・Python・MATLAB)を用いた統計解析法・データ駆動型解析手法の開発、スペクトル解析のためのUIソフトウェア開発・改良に積極的に挑戦し、実践の研究に応用しています。さらに、先端的な分析に耐えうる前処理システム環境整備・ハードウェア開発・改良などにも取り組んでいます。

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噴火の映像・空振同時観測 (イタリア・ストロンボリ火山)

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カルデラ形成時に放出された大規模火砕流堆積物

【噴火様式・火山活動史】
 山噴火は地球上で最もダイナミックな現象の一つです。地下深部で生じたマグマは上昇過程で発泡や鉱物の晶出を経て地表に達し、あるものは空中高くに噴き上げ、あるものは溶岩流となります。噴火はたとえ小規模でも尊い人命を奪うことがあり、大規模噴火なら地球規模の気候変動を起こし、生物の大量絶滅をもたらすことすらあります。火山活動の理解は私たちがこの地球に暮らしていく上で欠かせません。
 噴火の様式や規模はマグマ自体の性質(流動性・発泡度・結晶量)や、噴火時に水と接触したかなどの外的要因に依存します。私たちは火山観測や粘性実験を行い、火山活動度の評価や噴火・火山性地震・溶岩流のメカニズムの解明に取り組んでいます。さらに過去の火山噴出物を地質学的に調査し、火山灰の重なりから数万〜数十万年間の噴火推移の復元を試みています。特にカルデラを形成するような巨大噴火は観測事例がないため、地質調査を基に東北地方のカルデラ火山の発生頻度・メカニズムを研究しています。

研究施設・設備紹介

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東北アジア研究センターが入る川内合同研究棟

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PRGの学生部屋

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PRGが所有する試料作成室

 PRGの研究棟(川北合同研究棟)は青葉山北キャンパスではなく全学教育で利用する川内北キャンパスにあり、非常にアクセスに優れています。学生部屋はリビングのような雰囲気で、広い丸テーブル・ホワイトボードと大きなテレビを用いて発表練習や議論、雑談ができ、リラックスして研究に励むことができます。講座会(セミナー)は変成岩・海洋底火山の両分野合同で実施され、多様な視点に基づく活発な議論を目指しています。
 私たちは青葉山北キャンパスの分析機器・実験設備に加えて、独自に所有する偏光顕微鏡や岩石薄片・粉末試料作成のための設備を利用して研究を行っています。2020年度には新たに顕微ラマン分光装置を導入し、鉱物や微小な流体包有物の同定が可能となりました。様々な分析手法を駆使することによって、日々岩石・鉱物の詳細な成因解析に取り組んでいます。