

近世・近代における内陸アジア遊牧民社会の構造的特質とその変容に関する研究

東北アジアは、その内陸部において広大な草原ステップを有するが、この地域は歴史上遊牧民の活躍の舞台となった。近年、東洋史分野においては、特にモンゴル帝国など遊牧民の政治・経済的活動の世界史的意義への関心の高まりが見られる。これに対して、大清国支配下にあった近世や、遊牧民の定着化・近代化が進んだ近代については、充分に研究がなされていない。
一方脆弱な自然環境を抱える内陸アジアでは、開墾の進展や、過放牧による自然環境の悪化と、これに伴う沙漠化や黄砂問題など、この地域に淵源する環境面での問題に対する関心も高まっている。これは、近代に入って進行した遊牧民の定着化政策や、開発政策と密接に関わる問題である。そこでは、遊牧が自然に調和的な生産であるとする議論と、粗放な放牧こそが環境悪化の原因とする理解が並び立ち、また歴史的経緯に関する理解が共有されていないために、効果的な議論になっていない。かかる議論に歴史学的な基盤を与えるためには、前近代の遊牧民の社会構造や生産形態、20世紀を通じた近代化・開発政策の問題点などに対する実証的な研究に基づき、過去と現代を繋ぎうるような知見を提示する必要があると思われる。
そこで本研究では、豊富な史料が利用可能な近世(清代)及び近代(20世紀前半)に関して、遊牧民の社会構造・牧地利用・環境適応、あるいは19世紀以後定着化した旧遊牧社会の構造や農耕地利用などの特質について、モンゴルや中国に所蔵される膨大な数の文書資料や現地調査による実証的研究を行う。研究に当たっての基本的視角としては、遊牧vs農耕、あるいは移動vs定着といった文化に関わる二元論的構図を避け、遊牧社会自体のほか、その農耕社会への変化のプロセスや、旧遊牧社会が農耕化することによって現れた農耕社会の特質、19世紀以後本格化した漢人移住民社会とモンゴル人社会の関係と共存の様態などに関する研究を行う。

2013年度~2015年度

氏名 | 所属 |
岡 洋樹 | 東北アジア研究センター |
佐藤 憲行 | 東北アジア研究センター |
青木 雅浩 | 東北アジア研究センター |
小沼 孝博 | 東北学院大学文学部 |
中村 篤志 | 山形大学人文学部 |
ボルジギン・ブレンサイン | 滋賀県立大学人間文化学部 |

成果は、随時研究会を開催して研究発表を行い、また論文にまとめて学会誌などで発表する。またシンポジウムを開催して報告論文集として上梓する予定である。
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