聖書翻訳を通して見るモンゴル宗教文化交流史
これまで、モンゴル民族の宗教は「伝統的」に仏教であるという認識が強いこともあって、モンゴルのキリスト教に対する研究者の関心は決して高くはなかった。
しかし、モンゴルの歴史を振り返ってみると、キリスト教は、モンゴル帝国時代に広く受容されたネストリウス派に始まり、その後のカトリック教会との接触、19世紀以降のプロテスタント宣教、現代の福音派の流行に至るまで、長期にわたって歴史上に重要な位置を占め続けてきたことが分かる。キリスト教諸派は、断続的にではあるがモンゴル民族との交渉を続け、ときには人びとに受容されてきたのであり、モンゴル民族が西洋を含めた外部の社会と交流するときの重要な文化的結節点になってきたと言える。
本研究では、特にモンゴルの宗教文化における聖書翻訳史の重要性に注目する。聖書翻訳は、その翻訳をめぐる経緯や議論、訳語の選択や記述そのものについての分析を通して、各時代のモンゴル人をとりまく宗教文化交流史に接近する貴重な研究対象となりうるからである。
モンゴル語を中心に、ブリヤート語やカルムィク語などモンゴル諸語に翻訳された聖書は、再版、復刻、分冊を含めて80以上のバージョンがあることが、本共同研究メンバーのこれまでの調査により明らかになっている。本研究では、さらに、その聖書現物および関連資料の収集と整理、データベース化を通して、各バージョン間の影響関係を徹底的に解明する。
それを通して、モンゴル語訳聖書の翻訳の経緯を周辺資料も含めて分析し、訳語選択の問題やその背後にある翻訳思想、宣教師と仏教僧侶との交流、聖書翻訳事業がモンゴルの宗教文化に与えた歴史的影響など、モンゴル宗教文化史において聖書翻訳が有している意義について明らかにする。
さらに東北アジア研究センター教授の岡洋樹氏と連携して共同研究を進めることにより、センターにおけるモンゴル研究の蓄積との接続、およびその活用を計る。
平成26年7月~平成27年3月
氏名 | 所属 |
滝澤 克彦 | 長崎大学多文化社会学部 |
芝山 豊 | 清泉女学院大学人間学部/清泉女学院教育文化研究所 |
バイカル | 桜美林大学人文学系 |
荒井 幸康 | 亜細亜大学 |
岡 洋樹 | 東北大学東北アジア研究センター |
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