

華人の移動とその「故郷」についての民族誌的研究
― 華僑華人研究の新たなパラダイムに向けて

本研究では、中国にルーツを持つ人々の移動とその故郷との関係性について、従来の研究枠組みを動態的な視野の元にとらえ直すとともに、最新のフィールドデータを持ち寄って議論することで、華僑華人研究、ひいては移民研究の新たなパラダイムを展望することを目的とする。
移動する華人とその故郷についてはこれまで数多くの研究がなされてきたが、いずれにおいても定石的とも言える図式が描かれ、またそれが再生産されてきた。すなわち、福建あるいは広東といった東南地域の人々が東南アジアや欧米に渡り、現地で成功した後に送金や投資によって「貧しい」故郷を支えるというものである。しかしながら、今や中国本土の経済発展によって海外をはるかにしのぐほどの富を手に入れた人々は、もはや海外を苦労して金を稼ぎに行くべき場所としてではなく、むしろ旅行や留学先の一つとして位置づけるようになって久しい。あるいは、二次的、三次的な移住を繰り返す人々とその子弟たちにとって、中国本土は「祖先の故地」、あるいは「想像のホーム」になっている。一方では、従来の中国東南部からだけでなく、朝鮮族自治州から韓国へ、雲南からミャンマーへ、広西からベトナムへという新たな移住の波が起こっており、経済発展から立ち後れたそれらの地域は自らを「新しい僑郷(華僑のふるさと)」としてアピールし、海外からの寄付や投資を呼び込もうとしている。
本研究では、こうした今日的な華人の移動とその故地との動態的な関係を明らかにすることで、華僑とホームをめぐる上掲の「神話」を解体し、華僑華人研究の新たなパラダイムを提示したい。そして、個人の選択とマクロな政治経済的な状況との接合点に析出される「移住の文化」(Cultures of Migration)(Cohen and Sirkeci 2011)の検討を通して、移動をめぐる社会科学的研究への理論的な貢献を目指す。

2014年度~2014年度

氏名 | 所属 |
川口 幸大 | 東北大学大学院文学研究科 |
瀬川 昌久 | 東北大学東北アジア研究センター |
稲澤 努 | 東北大学東北アジア研究センター |
市川 哲 | 立教大学観光学部 |
李 華 | 延辺大学人文社会科学学院 |
河合 洋尚 | 国立民族学博物館研究戦略センター |
陳 碧 | 玉林師範大学 |
奈倉 京子 | 静岡県立大学国際関係学部 |

成果論文集の刊行。
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