

ウランバートル・ゲル地区における住まいの複層的調査を通した都市環境問題解決方策の提言

本研究グループは平成28年度の同センター共同研究を通し、ウランバートル市のゲル地区に固有の空間構造を明らかにした。そこでの知見を踏まえ、本年度は、同地区居住に関する制度・心理構造の知見を加えることで、都市環境問題の解決に資する提案を導くことを目的とする。
市場経済化後のモンゴルでは、体制崩壊後の社会システムの変容に起因する環境問題が深刻化している。とりわけ市街地周辺部に広がるゲル地区の家庭から排出される煤煙を要因とする大気汚染や土壌汚染の問題は深刻である。同市はゲル地区を外部の過渡的な存在ととらえ、大規模なインフラ開発を含む都市計画を行うことでこれら都市環境問題の解決をめざしている。
しかしゲル地区の住まいは、伝統的な都市居住形態の原型を保存する普遍性を有する一方で、社会主義体制や市場経済化といった各時代の社会制度との相関に基づく非連続的な面をも併せ持つ。そこで本研究では、ゲル地区の過渡的側面のみに囚われることなく、モンゴルの伝統的生活と近代的都市管理が混淆する特徴をもつ地区であることに注目し、複数の専門分野の観点を採用することでゲル地区の住まいの総体的な把握を目指す。そして、そこから立ち現れるゲル地区の住まいの固有性に基づく検討から都市環境改善の具体的な方策を導出する。
本研究の課題は、(1)ゲル地区の住居および住区の空間を構成する物質的要素・社会制度的要素を明らかにし、(2)近代化以前のイフ・フレーから現在に至る住民と住居管理の制度的変遷を説明したうえで(3)現在の都市計画への住民参加プロセスを特定し、最後に(4)住民による自律的な環境改善の可能性と制度的支援の方策を精査することである。
以上の研究に基づき2017年12月に東北アジア研究センターにおいて公開研究集会を実施するとともに、年度内に研究センター叢書として成果を1冊の書籍にまとめる。

2017年度~2017年度

氏名 | 所属 |
坂本 剛 | 名古屋産業大学現代ビジネス学部 |
滝口 良 | 北海道大学大学院文学研究科 |
八尾 廣 | 東京工芸大学工学部 |
佐藤 憲行 | 復旦大学中国歴史地理研究所 |
松宮 邑子 | 明治大学大学院文学研究科 |
ガンゾリグ・ロブサンジャムツ | 東京大学大学院工学研究科 |
岡 洋樹 | 東北大学東北アジア研究センター |
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