

東北アジアにおける地質環境と「石」文化の長期的相互作用の研究

【目的】
旧石器時代において、人間活動は石器製作伝統(「石」文化)によって語られる。東北アジアの「石」文化は、多様な地質学的環境(「石材環境」)を背景とし、異なる「石」文化の接触によって形成されてきた。こうした文化形成プロセスの理解を目指し、東北アジア研究センター公募型共同研究制度の支援を受けた昨年度は、韓半島から日本列島へ流入したとされる、柄を着けるための加工が施された狩猟用石器(基部加工石器)を、利用石材および石器形態の面から分析した。その結果、日本列島において、基部加工はなされているものの、利用石材は異なり、サイズも大型化していることが明らかになった。このことは、基部加工をはじめとするコンセプトが維持されつつも、異なる地質環境への適応および日本列島での狩猟スタイル(狩猟対象・方法・行動パターンなど)に合わせて機能変化が生じたことを示唆している。この仮説を検証するためには、狩猟スタイルの中での基部加工石器の役割と、石材環境が石器製作に与える影響をより詳細に明らかにする必要がある。そのため今年度は、①石器機能と狩猟スタイルの関係、②石材の物理的性質と石器製作のしやすさの関係の二点について分析を進め、より精緻な東北アジア地域の「石」文化形成プロセスの理解を目指す。
【方法】
約4万年前からの後期旧石器時代に属する石器を対象とする。石器を形態と製作技術に基づき分類した後、その組成(道具の種類と頻度構成)から狩猟スタイルを推定する。同時に、地質学的見地から石材の分布と物理的性質を検討し、韓半島と日本列島の石材環境の差異が、石器製作に及ぼす影響について考察する。
【期待される成果】
伝播してきた文化要素が、地質環境や生活スタイルと相互作用しつつ受容されていく過程を示すことが出来る。このことは、長期的な視点からみた環境と文化の相互作用の理解につながる。
【共同研究の理由】
関連ユニットの「東北アジアの地質連続性と「石」文化共通性に関する学際研究ユニット」(代表・辻森樹教授)は、本研究に必要な東北アジアの地質学データと、岩石としての考古資料に対する分析手法を与える。また、本研究は、考古学の持つ人間行動からの視点を提供することで、関連ユニットが目指す「石」文化の共通性の理解に寄与できる。

2017年度~2017年度

氏名 | 所属 |
田村 光平 | 東北大学学際科学フロンティア研究所 |
熊谷 亮介 | 東北大学大学院文学研究科 |
洪 惠媛 | 東北大学大学院文学研究科 |
青木 要祐 | 東北大学大学院文学研究科 |
阿子島 香 | 東北大学大学院文学研究科 |
辻󠄀森 樹 | 東北アジア研究センター |
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