

移動と流行:移民がもたらしたもの/持ち帰ったもの

本共同研究は、移動と流行との関連について、主に中国を対象として、文化人類学の方法論から考察を進めようとするものである。移動についてのこれまでの質的・民族誌的な研究では、人と金のフローの他、移動に至る経緯や家族を含めたコミュニティの役割、すなわち移動すること(あるいは、しないこと)の文化(cultures of migration)について論じられてきた[Cohen and Sirkeci 2011]。しかし、移動という経験そのものが、移住者、移住先、そして出身コミュニティに何をもたらし、何を変え(あるいは何を保ち)、そしてそれがいかなる意味づけを与えられているのかについての研究は進んでいない。
例えば、広東省では1990年代より内陸部からの出稼ぎ労働者が増えるにつれて、四川料理や湖南料理のレストランが急激に増加した。当初、これらの店は移住者を対象としていたが、今日では地元民の間に「辛いもの」ブームをもたらしている。元々、広東の人びとはトウガラシや香辛料を多用した辛く濃厚な味付けの料理に忌避感や嫌悪感すら抱いていたのだから、まさに移住者たちが彼らの食の体系や味覚すらも少なからず変えてしまったわけである。また逆に、都市に一時的に居住していた者が、くじを売る店が賑わっている光景を目にし、帰郷後に同様の店を開いて大いに繁盛させているという例もある。つまり、移住者たちは、移住先に新しいものをもたらしたり、出身地に新しいものを持ち帰ったりしているのである。
本研究では、このような「移民がもたらしたもの/持ち帰ったもの」に着目して、移動と流行という視野から文化の動的側面について考えてみたい。ウェブやSNSなどバーチャル空間とは異なった、実体的で身体的な情報のやりとりの解明は、まさに人類学的な特色が活かせるテーマである。

2017年度~2019年度

氏名 | 所属 |
川口 幸大 | 東北大学文学研究科 |
瀬川 昌久 | 東北アジア研究センター |
稲澤 努 | 尚絅学院大学 |
奈良 雅史 | 北海道大学 |
堀江 未央 | 名古屋大学 |
宮脇 千絵 | 南山大学 |
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