

津波カタストロフィーに対する沿岸生物の進化的応答:岩礁性巻貝をモデルにした形態・集団ゲノム解析

本研究の目的は、大規模撹乱に対する岩礁性沿岸生物の進化的応答プロセス解明である。東北地方太平洋側の生態系は、周期的に生じる地震に伴う大津波による大規模撹乱を経験してきた。2011年の東日本大震災後には、種多様性の減少、および集団動態の激変が生じている。このデモグラフィックな変動は同時に、種内における著しい形態的・遺伝的多様性の変化をもたらしたと予測される。一方で既往研究の対象は干潟のような内湾環境が中心であり、津波遡上の影響をより強く受けた岩礁性の種群における形態的・遺伝的な応答には不明瞭な点が多い。
申請者は本地域に生息する、分散能力が著しく低い巻貝に着目し、撹乱に対する進化的応答を検証している。チヂミボラは、宮城県牡鹿半島以北の岩礁に産する巻貝である。その初期発生は卵より稚貝が孵化する直達発生型であり、分散の機会がほとんどない。よって集団間の交流が著しく少なく、各集団が形態的・遺伝的に独自の進化を遂げている。この分散能力の欠如は、集団絶滅後の移入による回復を強く妨げるはずである。甚大な環境変動を繰り返し経験した種は、どのように集団を維持し、今日まで絶滅を免れ存続してきたのか?申請者が震災2年後の2013年度に実施した予察的研究では、本種の各地域集団がそれぞれ独自の形態的変異を蓄積している一方で、津波遡上高がその形態的・遺伝的多様性に影響していることを示唆した。そこで本研究では、東北地方北部太平洋側にて密にサンプリングを行い、形態的解析および次世代シーケンサーを用いた集団ゲノミクスから、その形態的・遺伝的多様性、および集団の分離癒合のダイナミクス、集団サイズの変遷を明らかにする。得られた成果は劇的なるカタストロフィーと、種存続プロセスの関連性をゲノムレベルで解明する嚆矢となる。

2020年度~2020年度

氏名 | 所属 |
山崎 大志 | 東北アジア研究センター |
池田 実 | 東北大学農学研究科附属女川フィールドセンター |
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