

ユーラシア遊牧民の地図史

今日、地図を持たない社会はないだろう。しかし、その地図の歴史は地域によって異なる。本共同研究では、主にユーラシア地域の諸地図を時間的・空間的に、また作成者別(当事者・他者の別)に比較することで同地域の遊牧民の地図描写の特徴やその変容を相対化しつつ、当該社会の土地利用や空間認識のあり方を解明することを目指す。
近世ユーラシア遊牧民社会の地図の研究は、ドイツで刊行された、20世紀初めの清朝外藩の地図や東京外国語大学に所蔵されている清代モンゴルの地図を使って行われてきた。だが、その研究史は浅く、また地図作成そのものへの関心が強い。現在求められるのは、地図を巡る、より多角的で発展的なアプローチである。こうした中、2020年夏に清代およびボクト政権期の古地図集(全3巻)がウランバートルにて刊行された。これにより、これまで実見が制限されていた、モンゴル国立中央公文書館に所蔵されている地図を調査することが可能となった。つまり、これまで成し得なかったような新たなアプローチが可能となり、地図史研究の新たな成果が期待できるのである。
具体的な調査・分析内容は次の通りである。
・時間的比較:清初から清末、また近代にかけての地図の作成や描写の変容を分析する。そこから、治者の影響力、権力の所在、統治手法の変化といった政治的課題を考察するほか、地図の作成が翻って人々の空間認識や「故郷」観念の変化にどのようなインパクトを与えてきたのかを考える。
・空間的比較:ユーラシアの諸地域(農耕地帯、遊牧地帯、接壌地帯)の地図を比較し、遊牧民の地図の描写やその作成方法の特性を相対化させると同時に、文化や生業を異にする諸社会の空間認識、土地利用を考察する。
・作成者別比較:遊牧民自らが描いた地図と他者が比較することで、地図の描写や作成方法、またその意図などを相対化させ、彼らの空間認識の特徴を考察する。
使用する史料は、モンゴル中央公文書館、北京第一档案館、内蒙古自治区档案館、東京外国語大学AA研などに所蔵されているアーカイブ史料、ヴィースバーデンやウランバートルで刊行された地図集[Heissig1978;Монголын нутгийн зураг2020]、また諸旅行記等を使う。

2020年度~2020年度

氏名 | 所属 |
堀内 香里 | 東北アジア研究センター |
Z.ニンジバダガル | モンゴル国立中央公文書館 |
中村 篤志 | 山形大学 |
小沼 孝博 | 東北学院大学 |
包呼和木其爾 | 内蒙古大学 |
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