東北大学東北アジア学術交流懇話会

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自然・環境


日本とマルタの本まぐろをつなぐ政治的責任

私は漁業資源をめぐる国際政治を研究しています。皆さんの食卓にマグロがどのくらいの値段で、どれくらいの量が届けられるのかは、国際政治が決めているところもあります。いわば、皆さんの食卓と国際政治がマグロを通じてつながっていると言えるわけで、遠そうなイメージの国際政治は実は非常に身近な存在なのです。
写真は地中海に浮かぶマルタ島沖の生簀から釣り上げられる大西洋クロマグロです。実は持ち主が勝手に釣り上げて勝手に売ることは許されていません。国際政治で決められた管理の手順を遵守して初めて、商品として販売することができるようになるのです。ちなみに、これらのマグロは日本に輸出されたそうです。
実は、日本で出回っているマグロの中には、ルール違反を犯して輸入されたものもあります。 大海原を泳ぐマグロを、釣り上げられたところから、みなさんの食卓に届けられるまでの過程を監視するのは容易ではありません。
そうした違反マグロを購入することは、違法行為に賛成票を投じていることになります。ものを消費するということは、それだけ社会的責任を伴う政治的行為です。
研究者は、持続可能な漁業を可能にするための研究を行い、漁業管理者は持続可能な漁業のためのルールを作り、漁業者はルールを守りながら魚を捕り、一般の消費者は持続可能な漁業で捕られた魚を買うことによって社会的責任を果たしながら持続可能な漁業を応援する。そうしたみんなの努力が、持続可能な漁業の実現のために必要不可欠です。

東北大学 東北アジア研究センター准教授(国際関係論・科学技術社会学) 石井 敦

生簀の見学で乗った客船から見えるマルタ島の旧市街
写真1:生簀の見学で乗った客船から見えるマルタ島の旧市街です。

 

生簀

 

生簀

生簀

 

生簀

写真2:この生簀は蓄養のためのものです。蓄養とは、クロマグロの幼魚を捕獲して、生簀で人工的に太らせる、つまり、
人工的に「全身大トロ」にする養殖の一種です。




身近な活火山、蔵王

2014年9月27日,御嶽山が噴火し、多くの登山者が犠牲となる痛ましい災害が発生しました。2011年3月11日の東日本大震災と同様に、「想定外」が起こったことが、被害を拡大させた一因だと思います。このような悲しいことが二度と起こらないように願い、懇話会ニューズレター「うしとら」第59号(2013年12月25日発行)の蔵王山に関する記事を、新たに加えた写真とともに、ここに改めて掲載します。                                        ( 2014年10月3日 )


私は火山を研究している。そのことを初対面の方に話すと,「富士山は噴火するんですか?」と、必ずといっていいほど聞かれる。一方、「蔵王は噴火するんですか?」と聞かれたことは一度もない。それどころか、こちらから話を振ると、「蔵王は休火山(注)じゃないんですか?」とか、さらには、「蔵王って火山だったんですか?」などと聞き返される。出張先などではなく,地元仙台での話である。私はこの状況に、驚きと、少なからぬ危機感を抱いている。
蔵王はれっきとした活火山(注)である。観光地になっている御釜は噴火口に水がたまったもので、壁に見える縞模様は,噴出物の積み重なりでである(写真1)。一部の秘湯マニアしか行かないような場所であるが、100℃前後の水蒸気が噴出する噴気地帯もある(写真2)。噴火の頻度は富士山にも引けを取らない。最後の噴火は富士山が1707(宝永4)年なのに対し、蔵王は1940(昭和15)年である。江戸時代末期から明治にかけては、100年ほどの間に十数回の噴火が記録されており、噴火に至らずとも、御釜の変色や沸騰といった異常現象は、明治から昭和にかけても多数記録されている(気象庁ホームページより)。
東日本大震災以降,世間では富士山の噴火が心配されているが、私は蔵王が活発化するかもしれないと思い,昨年(2012年)から不定期に,御釜の北東2kmほどの噴気地で温度を測定している。そんな中,今年(2013年)の1月に,火山に特有の小さな地震(火山性微動)が発生した。4月にも火山性微動が起き、その時には直前にわずかな傾斜変動(山の膨張や収縮に伴う傾きの変化)も観測された。このような状況を受け、東北大学では理学研究科が地震計やGPSなどの観測強化を進めている。
異常が起こっても噴火に至らないこともあり、少なくとも今のところは、すぐに噴火するような兆候は見られない。噴気温度にも変化はない。しかし今後の活動推移には注意が必要である。多くの火山は、同じような活動を繰り返す。蔵王の過去の活動を見ると、少なくともここ数百年の噴火は比較的小規模なものが多く、広範囲に大きな被害が及ぶことは考えにくいだろう。しかし、それらの噴火でも、周辺の市街地に火山灰を降らせた記録はある。その上,蔵王の東側には,新幹線,高速道路,空港といった,重要な交通施設がある。日本では西から東に吹く風が卓越するので、これらに影響が及ぶ恐れもある。また、積雪期(特に融雪期)に噴火が起これば、雪が一気に融け,麓を泥流が襲うことは十分に考えらる。それに、小規模噴火といってもそれは比較の問題で、私たち人間にとっては大きな驚異である。多くの犠牲者を出した1991年の雲仙普賢岳の火砕流ですら小規模の部類に入る。
2011年の震災では「想定外」ということが盛んに言われ,それが被害を大きくした一因とされている。もし今のような状況で蔵王が噴火したら、それは多くの人にとってまさに想定外のことだろう。冒頭に「少なからぬ危機感を抱いている」と書いたのはそのためである。
ここでは蔵王を例に挙げたが、あまり活火山と思われていない火山はほかにもたくさんある。火山は私たちが普段感じている以上に身近な存在なのである。噴火が起こった時、二度と「想定外」と言わなくて済むように私たちは火山のすぐそばに住んでいることを意識し,日頃からもっと関心を持つべきと、私は思っている。

(注):休火山や死火山という区分は現在では使われていない。その理由や、活火山の定義については紙面の制約から省きたいが、気象庁ホームページ内の「活火山とは」にわかりやすい説明があるので、それを参照されたい。

東北大学 東北アジア研究センター助教(火山物理学・マグマ物性)
(兼務)東北大学大学院 地学専攻          後藤 章夫


写真1: 御釜

 


写真2: 噴気地



← 蔵王山の火山ガスで腐食した鉄製の杭。丸山沢噴気地熱地帯(写真2)で10ヶ月間使用。腐食性の強い、人体にも有害な火山ガスが噴出しているのは、蔵王山が噴火の危険を秘めた、活きた火山である証です。




日本と東北アジアの大地のつながり

日本列島は海に囲まれていますが、大陸と無縁ではありません。毎年春先には大陸から黄砂が飛来しますし、平安時代には中国・朝鮮国境の白頭山(写真1)が大噴火して、東北地方各地に降り積もったその火山灰が今でも残っています。海水面が低下した氷河時代には、日本と大陸は陸続きになりましたし、今から1500万年前に日本海が拡大する前は、日本列島は大陸の一部でした。従って、この時代より古い地層は、日本から大陸へ直接つながっています。日本列島はロシアの東岸(写真2)や北米の西岸と同様に環太平洋造山帯に属しますが、西方では北中国と南中国の間の造山帯に、北方ではモンゴル・オホーツク造山帯にもつながる可能性があります。一方、日本列島は海洋プレートの沈み込みによる付加体でできており、日本列島の成り立ちを調べるためには、東北アジアの大陸の調査とともに、日本周辺の海洋底の研究も重要です(写真3)。我々の研究グループはこのような視点から、日本と東北アジアの地質学、岩石学、地球化学を研究しています。

元・東北大学 東北アジア研究センター教授(地質学・岩石学) 石渡 明


写真1:中朝国境にある白頭山の山頂の火口湖。10世紀に大噴火。

 


写真2:ロシア北東部における日露共同のオフィオライト地質調査。



← 写真3:米国の掘削船上の統合国際深海掘削計画(IODP)第330航海(南太平洋ルイビル海山列)乗船科学者一同。石渡研究室の博士課程学生エルデネサイハン君(前列中央白シャツ)がモンゴル人科学者として初めてIODPに加わった。




東北アジア地域の里山と生物多様性

中国・北朝鮮国境付近からロシア沿海州にかけては、世界有数の生物多様性を誇る森林生態系が分布しています。しかし、かつてこの地域を広大に覆っていた原生林の大半は20世紀以降、伐採、開発により失われ、現在では代わりに落葉広葉樹の二次林と、農地、草地がモザイク状に配置された二次的な自然が広がっています。この環境は人為的な改変が著しいため、生態学的にはあまり注目されていませんでしたが、実は意外にも極めて高い生物種の多様性を擁することがわかってきました。しかもその景観とそこに生息する動植物は、日本の東北地方の“里山”と酷似しています。いったいなぜ、歴史も過程も異なるにもかかわらず、そこに表面上、日本の東北地方の “里山”とそっくりな生態系が出現したのでしょうか。 この地域は原生的自然から二次的自然まで、さまざまな自然度の環境があり、人為的な環境改変が生物相をどのように変えるかを知るための優れたモデルです。またこの地域の生態系研究は、そのほとんどを里山に依存する日本の動植物相の起源と成立過程を解き明かすことでもあります。グローバルな生物多様性の保全を図る上でも、その研究は極めて重要な意義をもっています。

東北大学 東北アジア研究センター教授(生態学・保全生物学・進化生物学) 千葉 聡


写真1:中国・北朝鮮国境付近のモンゴリナラ二次林。養蚕のためサクサン(蛾)を放育(丹東郊外)。

 


写真2:中国東北部の里山(本渓南東部)。


写真3:中国・北朝鮮国境付近の河川とその周辺の里山(丹東郊外)。

 


写真4:中国東北部の里山を代表する生物、オオミスジ。

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